情報通信研究機構(NICT)は,光格子時計と水素メーザ原子時計を組み合わせた「光・マイクロ波ハイブリッド方式」を新たに開発し,光格子時計に基づく高精度な時刻信号の発生を世界で初めて半年間継続させることに成功した(ニュースリリース)。
現在,世界最高精度のセシウム時計は,正確な1秒間を±1.1×10-16秒の精度で実現できる。一方,NICTのストロンチウム光格子時計は,これを超える5×10-17の精度を保っており,この精度を時刻維持に利用することが期待される。しかし,一般に装置が複雑な光時計は,長期にわたり無人で動作し続けることはまだ難しく,光時計に基づいて時を刻むことは,まだ実現していなかった。
今回NICTは,ストロンチウム光格子時計と従来のマイクロ波時計で無人運転可能な水素メーザ原子時計(以下「水素メーザ」)を組み合わせて,時刻信号を発生する新しい方式「光・マイクロ波ハイブリッド方式」を新たに開発し,光格子時計に1秒の基準を求める形で,時刻系信号を世界で初めて半年にわたって生成することに成功した。
この方式では,水素メーザを無人運転しておいた上で,限定的に1週間に1度3時間,光格子時計を有人運転して,水素メーザが刻む1秒が現在どれだけずれているかを測定する。さらに,過去の複数の測定値も考慮して,今後どの程度水素メーザがずれていくかを予測する。この光格子時計を利用して予測した調整値をあらかじめ設定しておくことで,光格子時計を基準とした極めて安定な時刻信号を生成することができた。
今回生成に成功した高精度な時刻信号(1秒の精度は5×10-16秒以内)は,日本標準時(1秒の精度はおおむね5×10-15秒以内)よりも高精度なため,日本標準時によって性能を評価することはできない。そこで,BIPMが毎月又は毎年,世界中の400台以上の原子時計のデータを計算機に入力して計算する二つの仮想的な時刻と比較した。
その結果,今回生成した時刻系信号は,協定世界時に対しては半年で10億分の8秒程度ずれたものの,より高精度なBIPM地球時に対しては半年経過しても12億分の1秒以下のずれという,極めて正確なものだった。このことは,今回生成した信号は,協定世界時の刻む1秒のずれを明確に検出したことを意味している。
同時に,今回開発した装置の時刻信号が,世界中のマイクロ波時計の総力を結集して作成されたBIPM地球時と同程度又はそれ以上の性能を持つことが分かった。光時計によって協定世界時を校正することは,秒の再定義のための一つの必須条件となっており,今回の成果は,この条件をクリアする有力な方法になるとしている。