情報通信研究機構(NICT)は,東北大学,東京工業大学と共同で,従来の複雑な周波数逓倍処理を必要としないシンプルな小型原子時計システムの開発に成功した(ニュースリリース)。
原子時計は,ルビジウムなどのアルカリ金属元素のエネルギー準位差から得られる共鳴現象に,外部のマイクロ波発振器を同調させるように制御することで,安定な周波数を外部に提供する。マイクロ波発振は,低周波の水晶発振器を基に,周波数逓倍処理を行なって得るのが一般的だが,この方式は大きさと消費電力の問題があった。
今回,研究グループは,原子時計の小型化に向け,GHz帯で良好な共振が得られる圧電薄膜の厚み縦振動に着目した。この振動を利用することで,水晶発振器と周波数逓倍回路を必要としないシンプルなマイクロ波発振器の開発に成功した。これにより,原子時計システムの大幅な小型化と低消費電力化が実現され,市販の小型原子時計と比較した場合,チップ面積を約30%,消費電力を約50%抑制することが可能になる。
また,アルカリ金属元素から共鳴を取得する場合,アルカリ金属は気体状態にあることが必要となり,窓の付いたケースに封じ込めて,レーザーによる観察を行なう必要がある。従来はガラス管を利用したが,小型化と量産性に課題があった。
そこで,ウエハープロセスで製造可能な小型のルビジウムガスセルを独自に開発した。この小型ガスセルを,先のマイクロ波発振器と組み合わせて同調動作(原子時計動作)させると,1秒間で10-11台の周波数安定度が得られた。これは,市販の小型原子時計と比較して1桁以上の性能改善となる。
この成果の実用化は,原子時計システムを大幅に小型・低消費電力化し,今まで人工衛星や限られた通信基地局にのみ搭載されていた原子時計を,スマートフォンなどの汎用通信端末に搭載することを可能にする。これは,単なる通信端末の利便性向上に寄与するだけでなく,高い同期精度が求められるセンサー・ネットワークからの情報取得や,GPS電波が安定しない厳しい環境でのロボット制御(屋内ドローンや潜水システム)にも適しているとしている