名大ら,マイクロ波のピンポイント加熱をX線測定

名古屋大学,東京大学,高輝度光科学研究センターは,マイクロ波を照射することによって,ゼオライト内の単一イオンを原子レベルで選択的に加熱できることを示す実験的証拠を得た(ニュースリリース)。

カーボンニュートラル社会の実現に向けて,化学産業の電化による再生可能エネルギーの積極的導入,およびCO2排出量の削減が望まれている。

特に,化学反応を引き起こす触媒を含む反応器の加熱には,ボイラー加熱装置が用いられており多くの化石燃料が使われている。

このような背景のもと,近年,マイクロ波照射による触媒の加熱が注目されている。マイクロ波加熱装置は,再生可能エネルギー由来の電力を直接用いることができ,化石燃料が不要になることでCO2排出量を削減することができる。

加えてマイクロ波は,触媒中の特定の部位に作用することで,選択的な加熱をすることができる。これにより,例えば反応容器そのものは加熱せずに,触媒のみを加熱することができ,省エネルギー化につながる。

最近では,触媒内部でのマイクロメートルオーダー,ナノメートルオーダーの微小領域でのマイクロ波選択加熱が報告されており,「触媒反応に必要な微小部位にのみマイクロ波エネルギーを投入すること」が重要な課題の1つとなっている。

研究グループは,放射光設備SPring-8での高エネルギーX線を利用して,マイクロ波照射下のその場でのX線散乱測定と二体分布関数解析を組み合わせることで,ゼオライト内のイオンがマイクロ波によって特異的な振動状態になっていることを明らかにした。

これらの測定結果を,熱的な非平衡場を加味した分子動力学計算によってシミュレーションした結果と照合することで,単一イオンの原子レベル選択加熱を実証した。さらに,選択加熱された単一イオンを活性点としたメタン酸化反応を行なうことで,エタンなどの気相副生成物を抑制し,高い選択率で含酸素生成物(CO,CO2)が得られることを見出した。

研究グループは,この成果は,従来の加熱手法では実現し得ない「触媒反応に必要な微小領域にのみエネルギーを与える」ことを実現し,高度な反応制御手法の開拓と,省エネルギーな革新的触媒システムの開発につながるとしている。

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