東北大ら,X線タイコグラフィの空間分解能を向上

東北大学と住友ゴム工業は,干渉性に優れたX線を用いて物質の微細構造を高分解能で観察するX線タイコグラフィの計測をテンダーX線のエネルギー領域で実施可能なシステムをNanoTerasuのX線コヒーレントイメージングビームラインにおいて構築した(ニュースリリース)。

X線タイコグラフィは,コヒーレンスに優れたX線を試料に照射した際に試料後方で測定されるコヒーレント回折強度パターンを解析することで試料像を得るレンズレスX線顕微法。

この手法では顕微法において本来レンズが果たす役割を計算機が担うため,レンズ性能を上回る分解能での試料観察を実現できる。X線タイコグラフィによる測定を軟X線と硬X線の間のエネルギーを有するテンダーX線で行なうと,数µmの厚さを有する軽元素試料の内部における構造情報を高い空間分解能で取得可能となっている。

これまで,大型放射光施設SPring-8においてテンダーX線を用いたタイコグラフィ計測システムを開発してきたが,テスト試料で50nm程度,軽元素の実試料で100nm程度と,X線タイコグラフィ本来の高い空間分解能を実現できていなかった。これは,SPring-8のテンダーX線の強度が不十分であることが一つの原因だった。

2024年4月より東北大学に整備された3GeV高輝度放射光施設Nano Terasuの運用が開始された。NanoTerasuはSPring-8に比べて軟X線,テンダーX線の強度が大きくなるように設計されており,テンダーX線を用いたタイコグラフィの性能向上が期待されていた。

研究グループは,SPring-8で開発されたテンダーX線を用いたタイコグラフィ計測システムをNano TerasuのX線コヒーレントイメージングビームラインBL10Uに導入した。そして,3.5keVのX線エネルギーで測定および解析を行なった結果,タンタルのテスト試料で20nm未満,リチウム硫黄電池正極材として開発された軽元素材料の含硫黄高分子粒子で50nm未満の空間分解能を達成した。

また,限られたビームタイム中にタイコグラフィの光学配置を最適化するために,測定データを迅速に解析する必要があり,東北大学に設置されたスーパーコンピュータAOBAに一部の実験データを送り解析を行なった。

研究グループは,今後,このシステムを用いて,動作中のリチウム硫黄電池やタイヤゴムの計測・解析に応用することで,これまで不明瞭だった劣化メカニズムの解明および性能向上への貢献が期待できるとしている。

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