東北大学の研究グループは,ナノ光ファイバーにおける光の進行方向と偏光とが結合したカイラリティの性質を明らかにすることに成功した(ニュースリリース)。このような光ファイバーは,将来の量子光通信ネットワークにおいて重要な働きが期待される。
カイラリティ(キラリティ)とは自然界においてごく普通に見られる特性で,例えば右手と左手などのように,自身とその鏡像とが同一物とはならない形態のこと。このような身近な例ばかりではなく,分子,光,素粒子など,自然界のあらゆるスケールにおいてこのようなカイラリティの例を見つけることができる。
近年,ナノ光ファイバーと呼ばれる非常に細い光ファイバーが開発され,その中を伝搬する光においては,カイラリティが重要な役割をもつことが指摘されている。特に,ナノ光ファイバーの近傍で発生した光が右回りあるいは左回りのどちらの偏光をもつかによって,光ファイバーのどちら側へ伝搬していくかが決定される現象が発見され,注目されている。
ナノ光ファイバーの持つこのような性質を用いると,送信者から受信者へ向けて送信方向を確定した単一の光子を送ることができるため,将来の量子光ネットワークにおいて重要になると考えられている。
今回,研究グループは,ヒトの毛髪よりも200倍程度細いナノ光ファイバーを作製してその表面に金のナノ粒子を付着し,金ナノ粒子を「光アンテナ」として用いて,外部のレーザー光をナノ光ファイバーに導入した。このような細いナノ光ファイバーにおいては,自由空間の光とは異なる特殊な偏光の伝搬状態が存在し,それによるカイラリティが実現される。
実験では,入力するレーザー光の偏光状態を様々に変化させ,ナノ光ファイバーに導入された光がファイバーのどちら側へ伝搬していくかを精密に測定した。そして,任意の偏光状態に対する伝搬の方向性,すなわちカイラリティの完全なマッピングに初めて成功した。
今回の成果は,ナノ光ファイバーのカイラリティの特性を詳細に理解するとともに,その程度を定量的に評価可能な新たな手法を開発したものであり,今後の量子光学,量子情報通信の研究において有用な手法になるものだという。また,今後は半導体量子ドットなどの単一光子源と光アンテナを組み合わせ,単一光子の伝搬の方向性を制御する実験等を行ないたいとしている。