産業技術総合研究所(産総研)は,シリコン単結晶球体の超精密な形状計測を通じて,基礎物理定数の一つであるプランク定数を世界最高レベルの精度で測定し,キログラムの定義改定に向け大きく貢献した)(ニュースリリース)。
キログラムは現在,世界に一つしかない分銅「国際キログラム原器」の質量と定義されている。しかし原器の質量は,表面の汚染などによって変動してしまうため,普遍的な基礎物理定数に基づいた定義に改定すべく,研究が各国で進められており,プランク定数に基づく新たなキログラムの定義に移行するかどうかが,2018年の国際度量衡総会(CGPM)で審議されることとなっている。
プランク定数はキッブルバランス法とX線結晶密度法の二通りの方法で測定できる。産総研は,約40年前にX線結晶密度法を用いたプランク定数の精密測定に着手した。この方法では,シリコン単結晶の密度,モル質量,格子定数を測定し,シリコン単結晶に含まれる原子を数えてアボガドロ定数を測定する。
プランク定数とアボガドロ定数の間には厳密な関係式が成り立ち,アボガドロ定数の測定値から,ほぼ同じ精度でプランク定数を算出できる。自然界のシリコンには3種類の安定同位体(28Si,29Si,30Si)が存在するので,モル質量を決めるには同位体存在比を測定する必要がある。これがボトルネックとなりプランク定数の測定精度は3×10-7が限界であった。
そこで、国際研究協力「アボガドロ国際プロジェクト」に参画し,28Siだけを99.99%まで濃縮した28Si単結晶を製作した。2011年には,この28Si単結晶を用い,プランク定数を当時の世界最高精度3×10-8(1億分の3)で測定した。
この測定精度は国際キログラム原器の長期安定性を凌ぐものであったが,米国標準技術研究所(NIST)がキッブルバランス法で決定したプランク定数とは一致しなかった。このため,2011年の第24回国際度量衡総会(CGPM)では,プランク定数に基づく新たな定義に将来的に移行する方針が決議されたのみであり,定義改定には至らなかった。
今回,産総研では超高精度のレーザー干渉計と表面分析システムを用いて,直径約94mmのシリコン単結晶球体の形状を1nm未満の精度で測定することで,プランク定数を世界最高レベルの精度で測定した。さらに,科学技術データ委員会(CODATA)は,産総研や複数の海外の研究機関のプランク定数の高精度測定結果に基づき,キログラムの新しい定義に用いられるプランク定数の値を決定した。
わが国が国際単位系(SI)の基本単位の定義の決定に直接関与するのは初めてであり,約130年ぶりとなるキログラムの定義改定に貢献する歴史的な成果だとしている。