東京大学と仏リヨン大学の研究グループは,結晶がネットワーク状につながって形成された結晶ゲルの形成の機構を,その全過程を3次元共焦点顕微鏡により一粒子レベル分解能でリアルタイム観察することにより解明した(ニュースリリース)。
研究グループは,均一に分散したコロイド粒子の液体状態から,コロイド粒子間の引力により起きる凝集の過程で,最終的に結晶がつながりあってできた「結晶ゲル」が形成される素過程を,共焦点レーザー顕微鏡を用いた一粒子レベル分解能でのリアルタイム3次元観察により明らかにした。
通常のコロイドゲルは,コロイド粒子がランダムな構造のまま凝集して固まった状態だが,ある条件下で,結晶がつながりあったゲル状態が形成されることが知られていた。一方,どのような条件下で,また,どのような機構で,そのような特異な状態が実現されるのかは未解明であった。
研究グループは,この動的な過程を直接観察することに初めて成功し,その結果,まずコロイド粒子の濃度が高い液体相と,濃度の低い気体相に相分離する過程で,液体相のネットワークが形成され,その中に結晶核が形成されること,そして,それが成長して液体ネットワーク構造の表面に達し,直接,気体相と接触すると,液体相と固体相の飽和蒸気圧差のために,液体相が蒸発し,同時に気体相のコロイド粒子が結晶表面に凝結するという過程が重要となることを発見した。
この過程は,過冷却水と氷(氷晶)の混合体を含む雲において,氷晶が急速に成長する過程(ベルゲロン過程)と同じであり,冷たい雨の形成の素過程を微視的レベルで観察した初めての例と言える。
このようにして形成された結晶ゲルは,上記の形成過程を反映して滑らかな結晶表面を持っており,また,多孔体を形成し,表面積が極めて大きいため,もし金属原子などでこのような構造が形成されれば,触媒やセンサーなどへの応用上のインパクトも大きいとしている。
研究グループは,どのような条件を満たせば,この過程を実現できるかについての物理的指針も与えた。これまで,このような結晶からなる多孔体は,2成分からなる系を相分離させ固化したのち,1つの相を溶かして取り除くという2段階の過程で形成されていたが,今回提案された方法を用いると,一段階で多孔体を形成できる可能性があり,今後の応用が期待されるとしている。