電気通信大学とパリ高等物理化学学校の共同研究グループは,強磁場(約50テスラ)において,ビスマスの電気伝導度が従来予測を裏切り,急激に上昇することを発見した(ニュースリリース)。
詳細な理論解析を行なうことで,この上昇の起源は完全バレー分極にあることを突き止め,磁場を用いて初めて100%バレー分極状態に達成したことを証明した。
電子の電荷の自由度を制御・利用するエレクトロニクスや,磁性の起源である電子のスピン角運動量の自由度を利用するスピントロニクスの研究や実用化が進んでいる一方,電子の運動量に起因した自由度であるバレー(谷)を制御・利用する「バレートロニクス」の応用に向けた期待も近年急速に高まっている。
電荷やスピンは電子1個の性質であるのに対し,一つのバレーは電子の集団(1017個程度)により形成される。したがって,電子集団を丸ごと制御しなくては,バレーを制御したことにはならない。これまで,バレーを形成する電子の数を磁場で変える(バレー分極)ことは可能だったが,バレーの電子集団を丸ごと生成・消滅することはできなかった。
今回,共同研究グループは,3つの電子バレーを持つビスマスの特殊な電子状態に着目し,加える磁場の強度や方向を調整することで,バレーを形成する電子集団を完全に消す(100%バレー分極)ことに初めて成功した。しかも,バレーを1つだけ消すか,2つ同時に消すかを,磁場方向で簡単に制御できることも見出した。
この研究結果は,ビスマスでの象徴的な事例に留まらず,シリコン(バレーは6つ)やゲルマニウム(バレーは8つ)など,よく知られる半導体におけるバレー制御の研究に対しても新たな方向性をもたらすものだとしている。