名古屋大学の研究グループは,室温以下の幅広い温度域で,熱を電気に変える性能が,現在実用されている材料より格段に優れた新しい熱電変換材料を発見した(ニュースリリース)。
熱電冷却(ペルチエ冷却)は,物質中の電子が電気だけでなく熱も運ぶことを利用した冷却であり,フロン類のような冷媒ガスを使用しない全固体の冷却技術として幅広い応用が期待されている。しかし,マイナス100°C以下の温度域で高い性能を示す材料が得られておらず,ビスマス系の材料を利用した赤外線センサーの冷却など,室温付近における限られた実用に留まっていた。
研究グループは,タンタルとケイ素を含むテルル化物が,化学組成を適切に制御することで,室温からマイナス230°Cの幅広い温度域で優れた性能を示すことを発見した。
この性能は,特徴的な結晶構造に由来する一次元性の強い電子状態と,ディラック電子系であることによる非常に小さいバンドギャップが,一つの物質に共存していることに起因している。ディラック電子系は,物質の性質に電子状態のトポロジーがどのような影響を与えているかという基礎物理の観点で,近年特に注目されている。
冷却能力の目安となる出力因子を比べると,この材料のマイナス200°Cの値はビスマス系実用材料の室温の値の約2倍だった。この発見は,これまで困難であった低温での熱電冷却を可能とする点で画期的であり,大掛かりな装置で低温に冷やして使っていたデバイスや材料を,冷媒を使わず局所的に冷却し動作させる可能性を拓くもの。
また,この材料は室温付近においても高い性能を示すため,人体の体温と外気温の温度差など我々の身の回りにあるわずかな温度差を利用した環境発電への応用も期待されるとしている。