名古屋大学は,カーボンナノチューブ(CNT)の部分構造を持つ筒状炭素分子「カーボンナノベルト」の世界初の合成に成功した(ニュースリリース)。
特定の機能を示す単一構造のCNTは,圧倒的に優れた機能性材料として利用できることが期待されるため,狙った構造のみのCNTを合成する手法が求められてきた。しかし,現在の製法ではさまざまな直径と構造を持つCNTが同時に生成するため,混合物としてしか得ることができず,混合物から単一構造のCNTを分離および精製する手法も確立されていない。
また,CNTには大きなひずみがあり,合成が困難と予想される構造にも関わらず,なぜ自然発生的に形成するのか十分に解明されていないことも,単一構造のCNTを合成する有効な手段がない理由の1つとなっていた。
この課題を解決する有望な方法の1つとして,「有機合成化学によってCNTの部分構造を正確に合成し,それをテンプレート分子として単一構造のCNTへと伸長させる方法(CNT伸長反応)」がある。これを実現するために,CNTに近い構造を持つテンプレート分子の合成が求められていた。
研究グループが合成に成功した炭素分子「カーボンナノベルト」は,ベンゼン環同士が互いに辺を共有して(縮環して)筒状の構造を構成している炭素分子の総称として提唱されたもの。その歴史は古く,1954年に文献に記載された。しかし「カーボンナノベルト」は,平面構造が最も安定であるベンゼン環が筒状に曲がることで大きなひずみが生じており,不安定で合成が困難だった。
今回,初めにひずみのない環状分子を合成し,次に炭素炭素結合形成反応によって筒状構造に変換するという方法を用いた。安価な石油成分であるパラキシレンから合成した部品AとBを順番に結合させていくことで,ベンゼン環6個と架橋部位を持つ環状分子Cを合成した。このとき,最終段階で筒状構造に縮環する炭素原子全てに,反応性を高める「タグ」である臭素原子(Br)が結合しているように設計した。
2つの近接した炭素臭素結合を切断し,1つの炭素炭素結合に変換する反応はニッケル錯体を用いて行なうことができ,これによって世界初の「カーボンナノベルト」の合成に成功した。
さらに,合成された「カーボンナノベルト」を各種分光学的手法によって詳細に解析した。その結果,まずX線を用いた構造解析法によって,「カーボンナノベルト」がCNTと同様の筒状構造を持つことが明らかになりった。また,可視光の吸収および蛍光の分析により,構造の剛直さや筒状構造全体を電子が通る性質を観測するとともに,ラマン分光法によって,CNTに非常に近い性質を持つ分子であることを実証した。
今回得られたカーボンナノベルトは,赤色蛍光を発する有機分子で,発光材料や半導体材料として各種電子デバイスに搭載できる可能性があるという。さらに,カーボンナノベルトをテンプレートにした製法で単一構造のCNTが得られれば,軽くて曲げられるディスプレーや省電力の超集積CPU,バッテリーや太陽電池の効率化など,非常に幅広い応用が期待されるとしている。