京大,光による量子ホール状態の制御に成功

京都大学の研究グループは,光吸収により量子ホール系物質の絶縁性が改善されることを発見し,光による量子ホール状態の制御を実現した(ニュースリリース)。

量子ホール効果は,物質の種類によらずホール伝導率が非常に正確に普遍的な値をとる現象で,後にトポロジーの概念の導入につながった。トポロジーは、形を連続的に変形しても変わらない整数値(トポロジカル不変量)で物を分類する。この考え方を物質の電子状態に適用することで,量子ホール系のホール伝導率がトポロジカル不変量で決まることが分かっている。従って一見別の物質でも,トポロジカル不変量が同じであれば普遍的なホール伝導率を示すことが理解されている。

しかし,トポロジカルな性質は物質の絶縁性が低いと消失してしまうため,いかに物質の絶縁性を高めるかが重要となる。量子ホール系の場合はこれまで,より良質な結晶を作成し,極低温で高磁場をかけることで絶縁性を高めていた。これは電子の平衡状態に限れば絶縁性を高める唯一の方法だが,光を照射し非平衡な電子状態を利用して絶縁性を高めるという手法は,これまで考案されてこなかった。

研究グループは,典型的な量子ホール効果を示すヒ化ガリウム(GaAs)の2次元電子系に対して光でエネルギーを与え(光励起),電気伝導特性がどのように変化するかを調べた。実験開始時点での試料の温度と用いた磁場の強さでは,平衡状態における絶縁性は低く,量子ホール効果が消失しかかっている状況を作ったうえで実験を行なった。特定の電子状態を作り出すため,光励起には1012Hz程度のテラヘルツ波のパルス光を用いた。

その結果,テラヘルツ波による励起が行なわれると,電気伝導率が一旦上昇した後減少し,物質の絶縁性が増していることがわかった。また,絶縁性が増している時間領域でホール抵抗率(ホール伝導率の逆数)が普遍的な量子化値に近づいていることもわかった。これは,絶縁性の改善によりトポロジカルな性質が回復していることを表している。光照射後の非平衡状態でも絶縁性が良ければ物質のトポロジカルな性質が現れることを,初めて実験的に示した。

この研究により,量子ホール系物質のトポロジカルな性質が光によって制御できることが示された。 これをきっかけに,光照射によって作られた非平衡状態にまでトポロジカルな性質の研究が拡大することが期待される。今後は,量子ホール系以外のトポロジカル絶縁体でも非平衡状態でトポロジカルな性質が現れるかを調べる。非平衡状態を含めたより広い物質状態を利用することで,将来のトポロジカル物質を用いた応用のさらなる広がりが期待されるとしている。。

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