大日本印刷(DNP)は,半導体用フォトマスクの製造において描画時間を大幅に短縮することが可能なマルチ電子ビームマスク描画装置を導入し,次世代半導体用フォトマスクの生産体制を強化する(ニュースリリース)。
現在の半導体は,十数ナノメートル(nm)の回路パターンを3次元(3D)構造でシリコンウェハに形成するなど微細化が進んでいる。半導体の製造は,フォトリソグラフィ技術を使用しているが,光の波長などの特性によって解像度に限界が生じるため,多重露光技術や光学補正技術などを活用している。
しかし、多重露光ではフォトマスクの枚数が増え,光学補正ではフォトマスク1枚の描画時間が長くなるという課題がある。10nmプロセス向け以降の次世代半導体用フォトマスクの製造では,パターン描画工程だけで数日かかる場合もあり,今後の微細化の進展で更に長くなることが想定されることから,描画時間を短縮する製造方法が求められていた。
これに対し同社は,フォトマスク専業メーカーとして世界で初めてマルチ電子ビームマスク描画装置を導入してフォトマスクの描画時間を大幅に短縮し,高い生産性を可能とすることで次世代半導体用フォトマスクの生産体制を強化する。
同社は約5年間,半導体メーカーや描画装置メーカー等と協力して,マルチ電子ビームマスク描画装置の開発を進めてきた。今回導入する装置は,露光量を制御するアパーチャーを特殊なものにすることで,単一の電子銃から約26万本の電子ビームを照射することができる。
従来の方式では,次世代半導体用フォトマスクのパターン描画には,18時間以上最大で数日間要していたが,それぞれの電子ビームを高精度に制御しながら描画することで,半導体メーカー各社の7nmプロセス向けフォトマスクでは描画時間を約10時間とすることが可能となる。また,今後さらに微細化の進む次々世代半導体用フォトマスクでも描画時間を短縮できる。
同社は次世代半導体用フォトマスク供給体制を強化するとともに,半導体メーカーと共同で次世代半導体用フォトマスクの開発も加速させ,次世代半導体用フォトマスクプロセスの標準化に努めていく。また,今後大幅な需要増が見込まれる3D構造のNAND型フラッシュメモリーでも活用されるナノインプリントリソグラフィ用テンプレートの製造にもこの装置を適用していく。
さらには,IoT(Internet of Things)化によるビッグデータの管理や,人工知能(AI)での活用及び低電力化との両立に向けて,今後さらに微細化の進む次々世代半導体用フォトマスクの供給体制を強化していく。なお,マルチ電子ビームマスク描画装置導入によるフォトマスク量産体制強化により,2019年に年間60億円の売上げを目指すとしている。