自然科学研究機構 核融合科学研究所(NIFS)と上智大学は共同で,大型ヘリカル装置(LHD)で生成される高温プラズマの内部に,高原子番号の元素を入射し,極端紫外領域の発光スペクトルを計測することで,過去に実験的に観測されていなかった新たなスペクトル線を発見した(ニュースリリース)。
多価イオンからの発光は,スペクトル線の波長さえ,実験によって調べられていないものもある。これらの元素の多価イオンの中には,プラズマの産業応用研究や核融合研究などにおいて重要な元素も含まれており,発光スペクトルの理論予測の実験的検証が求められている。
LHDは,高温プラズマを安定して長時間閉じ込めることができるため,高原子番号の元素をごく少量高温プラズマ中に混入させることによって,多価イオンを容易に生成して,発光を調べることができる。また,プラズマの温度や密度などが正確に測定できるため,発光スペクトルの理論予測の検証に役立つデータベースが得られる。
研究グループは元素周期表で第5周期及び第6周期に位置する,スズ,ガドリニウム,タングステン,金,ビスマスなどの重い元素を,LHDの高温プラズマ中で多価イオンにし,極端紫外領域(波長1〜15㎚程度)の発光スペクトルを,斜入射型真空紫外分光器を用いて系統的に観測した。
実験ではまず,LHDで高温プラズマ中の不純物の挙動を調べる目的で開発された技術を活用して,重い元素をごく少量高温のプラズマ中に入射した。その後,プラズマの加熱パワーをコントロールして,電子温度の高い状態から低い状態に変化させた。
生成される多価イオンの価数は様々だが,こうすることで,電子温度の変化に対応してプラズマ内で支配的となる多価イオンの価数が変わることにより,スペクトルが劇的に変化する様子を一度の実験でまとめて計測することに成功した。
一連の元素についてスペクトル線を確認した結果,テルビウム,ホルミウム,ツリウム(原子番号65,67,69)の新たなスペクトル線を,世界で初めて実験的に発見した。
理論的に予測される波長によく一致しているスペクトル線と,系統的にややずれているスペクトル線があり,理論予測の実験的検証に有用なデータだとしている。
この研究で得られた一連の実験データベースは,これらの研究開発において,シミュレーションの精度向上等に役立つ基礎データを提供するものとしている。
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