分子科学研究所(分子研),東京大学,大阪大学の研究グループは,リニア分子モーターダイニンの高速高精度1分子観察を達成した(ニュースリリース)。
研究グループは,リニア分子モーターであるダイニンの高速高精度1分子観察に挑戦した。直径30nmの金ナノ粒子を観察の目印とし,独自に開発した全反射型暗視野レーザー顕微鏡で1分子観察を行なった。
暗視野顕微鏡では,試料により散乱された光を検出して観察するが,今回の全反射型暗視野レーザー顕微鏡は,レーザー光を試料面で全反射させたときにできる沁みだし光を照明光として用いる顕微鏡であり,観察のコントラストを格段に向上させることができる。
金ナノ粒子は強い散乱光を発するため,暗視野顕微鏡における観察の目印としてよく用いられる。また観察試料には,微小管に結合した状態の分子構造の詳細が以前の低温電子顕微鏡観察で明らかとなっている,キメラダイニンを利用した。
細胞内の条件に近い高濃度ATP(アデノシン三リン酸),かつダイニンが自由に運動できる無負荷条件において,100μ秒の時間分解能と1nm以下の位置決定精度で速い歩行運動の一歩一歩を可視化することに初めて成功した。
その結果,微小管上を正確に一歩ずつ前進するリニア分子モーターキネシンとは異なり,その歩行運動は前進だけでなく後退や横方向への動きを多く含む,酔っ払いのような歩き方であることが確認された。
また,ダイニンの歩幅は,従来のミリ秒レベルの低速1分子観察で報告された値よりも小さく,レールである微小管上のダイニン結合部位間の最小間隔と同等であることを初めて明らかにした。高速高精度1分子観察の適用により初めて,小さな歩幅が明確に可視化された。さらに,2本の足が高度に協調して正確に歩行するキネシンとは異なり,それぞれの足が協調せずに独立に動くことが示唆された。
この研究の成果は,リニア分子モーターの歩行運動の仕組みの多様性を明らかにし,人工分子でリニアモーターを実現する上で重要な指針を与えるものだという。またこの結果は,細胞内物質輸送という機能の達成は,不正確な動きでも可能であることを示すもの。人工分子でナノサイズのリニアモーターを設計する上での制限が大きく緩和され,その実現可能性が向上したとしている。