はるかなる蜃気楼

先日,出張で琵琶湖畔の長浜を訪れた。宿泊先のホテルで早く目が覚めてしまったので,僕は,そのホテルから電車で一駅の出張先まで,朝の湖畔沿いの道を歩いて行くことにした。その日の朝は急に冷え込んでいて,湖から吹き付ける風に震えが止まらない。どんよりとした曇り空の下で,鈍色の湖面には風波が立っている。

僕はなんだか侘しい気分になって,歩こうと決心したことを少し後悔していた。でも,せっかく普段訪れることがない琵琶湖に来たのだからと,とりあえず寒々とした琵琶湖の風景を写真に収めることにした。かじかむ手で鞄から愛用のコンパクトカメラを取り出しながら湖を眺めていた僕は,風景に少し異変があることに気がついた。

湖の向こう側に見える島がどうも空中に浮いているように見えるのだ。その島から少し離れた場所に見える建物らしきものも長く伸びて浮いている。さらに視界を広げてみると,遠くの島と島の間に,樹木らしきものが水平線上に一列に並んでやはり空中に浮かんでいる。

僕は確信した。蜃気楼だ。子供の頃からずっと憧れていた蜃気楼をついに僕は見てしまったのだ。念のために,写真に撮った風景を拡大してみたらしっかりと水平の景色が浮いているので,間違いはない。

この続きをお読みになりたい方は
読者の方はログインしてください。読者でない方はこちらのフォームから登録を行ってください。

ログインフォーム
 ログイン状態を保持する  

    新規読者登録フォーム

    関連記事

    • つり革の幻影 回折かピンボケか

      著者:納谷昌之 僕がよく乗る小田急線のつり革は、握りの部分が円形をしている。座席に腰を下ろすと、その下辺あたりが、荷棚のステンレスパイプとちょうど重なる位置に見える。そのパイプには、天井の照明が細いスリット状の光として映…

      2026.05.13
    • 見ているものは何なのだろう

      著者:納谷昌之 関東では、冬晴れの日が続いている。僕の住む場所からは、青空の下、目の前に広がる丹沢の山並みや、遠く雪を被って鎮座する富士山の、くっきりとした風景を仰ぐことができる。ふと、この風景が、僕の目の中の網膜の上で…

      2026.03.23
    • 衣服で化ける

      僕が子どもの頃,世界にはまだ裸族がたくさん住んでいた。テレビでは,下唇を円盤で大きく広げたり,局部を木の筒に収めただけの姿で裸のまま躍動する人々の暮らしが,様々な番組で紹介されていた。今はどうだろう。先日,アマゾン奥地に…

      2026.02.17
    • 米とひかり

      米のトップブランドといえば「コシヒカリ」だろう。この名前は,越国(こしのくに)の光り輝く品種になって欲しい,という願いのもとに命名された。それ以外にも,米の品種名には「きぬひかり」「ひのひかり」など,「ひかり」の付くもの…

      2026.01.16
    • 鏡という秘境

      鏡は人類にとって最も身近な光学素子と言っても過言ではない。現存する最古の金属鏡は紀元前2800年頃のものらしい。そんな長い歴史を持ちながら,鏡はいまだに謎を秘めている。「鏡に映った自分の姿は左右が反転するのに,上下は反転…

      2025.12.11

    新着ニュース

    人気記事

    編集部おすすめ

    • オプトキャリア