はるかなる蜃気楼

著者: 月谷 昌之介
先日,出張で琵琶湖畔の長浜を訪れた。宿泊先のホテルで早く目が覚めてしまったので,僕は,そのホテルから電車で一駅の出張先まで,朝の湖畔沿いの道を歩いて行くことにした。その日の朝は急に冷え込んでいて,湖から吹き付ける風に震えが止まらない。どんよりとした曇り空の下で,鈍色の湖面には風波が立っている。

僕はなんだか侘しい気分になって,歩こうと決心したことを少し後悔していた。でも,せっかく普段訪れることがない琵琶湖に来たのだからと,とりあえず寒々とした琵琶湖の風景を写真に収めることにした。かじかむ手で鞄から愛用のコンパクトカメラを取り出しながら湖を眺めていた僕は,風景に少し異変があることに気がついた。

湖の向こう側に見える島がどうも空中に浮いているように見えるのだ。その島から少し離れた場所に見える建物らしきものも長く伸びて浮いている。さらに視界を広げてみると,遠くの島と島の間に,樹木らしきものが水平線上に一列に並んでやはり空中に浮かんでいる。

僕は確信した。蜃気楼だ。子供の頃からずっと憧れていた蜃気楼をついに僕は見てしまったのだ。念のために,写真に撮った風景を拡大してみたらしっかりと水平の景色が浮いているので,間違いはない。

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