金魚に騙される─立体という幻─

著者: 納谷 昌之

10月の最終日,札幌市郊外の札幌芸術の森には,北海道らしい色とりどりの紅葉と人工のオブジェによる魅力的な光景が広がっていた。その一角に建つ美術館では,深堀隆介氏の「水面(みなも)のゆらぎの中へ」という展覧会が開催されていた。深堀氏については,“金魚を描く作家”という程度の情報だけを知っていた。

金魚に別段の関心があるわけではないけれども,せっかく来たのだからという程度の理由で,僕は展覧会に足を踏み入れることにしたのだった。

この続きをお読みになりたい方は
読者の方はログインしてください。読者でない方はこちらのフォームから登録を行ってください。

ログインフォーム
 ログイン状態を保持する  

    新規読者登録フォーム

    関連記事

    • AIみたい

      8 月のお盆明けに,北アルプスの白馬岳に登ってきた。今回辿った蓮華温泉からのコースは,後立山連峰の新潟側に連なる朝日岳や雪倉岳などの,たおやかな景色を横に眺めながら登る稜線歩きだ。ゆったりとした緑の峰々の,ところどころに […]

      2025.11.10
    • 青い花火は手強いか

      大学4 年の夏,部活の同期数名と旅行をしていた途中,新潟県分水町(現在は燕市)にある友人の家に泊めてもらったことがある。そこでは朝昼晩のご馳走だけでなく,近くの名所にドライブに連れて行ってもらうなど,大いにもてなしを受け […]

      2025.10.10
    • コーヒーの泡は何色?

      毎朝,ドリッパーでコーヒーを淹れるのが僕の日課だ。ペーパーフィルターに盛ったコーヒー豆の粉にお湯を注ぐと,粉の山はふわっと饅頭のように膨らみ,そして,夥しい数の細かい泡が表面に現れる。そんな光景を眺めているだけで,なんだ […]

      2025.09.11
    • 光とエントロピー増大の法則

      エントロピーとは,乱雑さや無秩序さを表す物理量である。例えば,水にインクを一滴垂らした直後,インクがまだ広がらずに濃い塊のまま留まっている状態はエントロピーが低い状態だ。時間が経って,インクが水と均一に混ざり合った状態は […]

      2025.08.13
    • 無明の巻

      先日,山梨県の上日川峠から大菩薩峠を越えて,丹波山村まで歩いてきた。大菩薩峠は,富士山の展望が素晴らしい山歩きの名所として知られ,訪れる人の多くは,そこからさらに稜線をたどって,深田久弥が日本百名山に選んだ大菩薩嶺を目指 […]

      2025.07.11
    • ネオンサインの時代

      「ネオン街」というのは,夜の歓楽街を指す魅惑の言葉だ。煌々と灯るネオンサインが,夜も眠らぬ街のシンボルだったことに由来するのだろう。でも,実際には,飲食店の多くを占める小規模のスナックやバー,居酒屋などには,ネオンサイン […]

      2025.06.10
    • 心霊写真はなぜ怖い

      世界で初めての心霊写真は,1860年代にアメリカの写真家ウィリアム・H・マムラーによって撮影されたものとされている。1839年に写真が発明されてから,わずか20年余り後のことである。マムラーが撮影した写真には,被写体とな […]

      2025.05.10
    • マルチプル・ハロ・ディスプレイとの遭遇

      先日,正月明けに千歳から東京へ向かう午後の便で,僕が予約したのは東京へ向かって右手の窓側席だった。この席は,内陸の山々や猪苗代湖などの大きな湖を望むことができるものの,午後の日差しが顔に直接当たるため眩しく,暑い。だから […]

      2025.04.14
    • つららレンズ

      氷柱というのは,垂れ落ちる水が凍って棒状に伸びる氷の柱のことである。これを「つらら」とひらがなで書くと,単なる物質ではなく,妖しいきらめきと儚さなどの情緒を含んだ言葉と感じてしまう。氷柱のない地方に暮らすようになってから […]

      2025.03.11
    • オプトキャリア