X線を越えるもの

幼稚園の頃,体が小さくて馬鹿にされたのを見返すために木から飛び降りたら,着地の時に手をついて右肘を脱臼した。脱臼と言っても関節が変形してしまうほどの重症で,外科でギブスをはめられた後,夏の間,僕はプロ野球選手も通っていたという整骨院で治療を受けた。僕がどんなに泣き叫けぼうと,ぐいぐいと治療が続けられ,そのおかげで完治したのだが,大きくなって母から聞いた話では,最初に行った整形外科では,おそらく肘の関節が曲がったままになってしまうだろうと言われたらしい。そういえば病院でX線写真を見ながら母が泣いていた記憶がある。

時は過ぎ,大学院の1年の冬も終わりの頃。スキーをしていたら横から知らないおばさんが突っ込んできて,ぼくの足を蟹挟みにしながら転倒し,僕は右膝内側靭帯を断裂してしまった。この時は足を伸ばしたままギブスで固められ,春休みの50日間を病院で過ごすはめになった。学生なので友人たちが見舞いに来てくれては僕のギブスにいたずら書きをしていく。恥ずかしいけど何だか嬉しい気分でもあった。そして,今回,運動中に転んで手をついたら指の腱が切れてしまった。ギブスで8週間固められ,随分と不便な日々であった。それにしても生まれてから3回もギブスをはめるなんて,おそらく平均的ギブス装着率を大きく上回っていると思うのだが,そんなことは自慢にもならない。

この続きをお読みになりたい方は
読者の方はログインしてください。読者でない方はこちらのフォームから登録を行ってください。

ログインフォーム
 ログイン状態を保持する  

    新規読者登録フォーム

    関連記事

    • ちょうど良い暗室

      ちょうど良い暗室

      著者:納谷昌之  光屋にとって、暗室は身近な存在だろう。僕にとっても、大学の光学の研究室で学んで以来、長い付き合いになる。指導教官から一通りの説明を受け、初めて一人で暗室に残された時の光景は、今でも忘れられない。レーザー…

      2026.08.12
    • 遥かなる蜃気楼

      著者:納谷昌之  5 月に、富山県魚津市に行ってきた。魚津市は蜃気楼が現れる街として有名である。屏風のようにそびえ立つ残雪の立山の眺めも魅力的だ。そして、5月はホタルイカなど、富山湾の海の幸も旬となる。そのすべてを体験す…

      2026.08.12
    • グラスが放つ光

      著者:納谷昌之  水や酒が入ったグラスを透かして、テーブルに映る光を眺めるのは楽しい。とりわけ、真上にスポット照明があるような場所で、グラスの底を通って作り出される光の模様が僕は好きだ。できれば部屋は薄暗い方がいい。光が…

      2026.07.08
    • つり革の幻影 回折かピンボケか

      著者:納谷昌之 僕がよく乗る小田急線のつり革は、握りの部分が円形をしている。座席に腰を下ろすと、その下辺あたりが、荷棚のステンレスパイプとちょうど重なる位置に見える。そのパイプには、天井の照明が細いスリット状の光として映…

      2026.05.13
    • 見ているものは何なのだろう

      著者:納谷昌之 関東では、冬晴れの日が続いている。僕の住む場所からは、青空の下、目の前に広がる丹沢の山並みや、遠く雪を被って鎮座する富士山の、くっきりとした風景を仰ぐことができる。ふと、この風景が、僕の目の中の網膜の上で…

      2026.03.23

    新着ニュース

    人気記事

    編集部おすすめ

    • オプトキャリア