カーナビ(カーナビゲーション)が普及し始めてもしばらくの間は,僕はあえてそれを所有しなかった。どこかに出かけるときには道路地図を熟読してルートを決め,道が分からなくなれば一旦車を止めて地図を確かめ,あるいは助手席に座る同乗者にナビゲーションを託す。それこそがドライブだと思っていた。たとえ助手席の妻が地図読みに手間取って喧嘩になろうと,やっぱり地図第一主義。カーナビなんて堕落であると,僕は頑なに信じていたのである。
ところがどうだ,今では事前にルートを調べることもなくカーナビに頼りきりである。それどころか,最近では街歩きの時にも情報端末の音声案内ナビで目的地に向かうという,もはや”堕落”も行き着くところまで行ってしまったという有様だ。とは言いながら,もともと地図を読むことが好きで,どんな地図でも眺めていれば面白い。
中でも国土地理院の2万5千分の1の地図は格別だ。実際に書き記されているのは等高線と地名,そして,記号だけなのに,それを眺めているだけで山や谷の複雑な地形が浮かび上がってくる。崖や崩落地も克明に描かれているし,植生だって想像することができる。一見地味に見える1枚の地図の中に,実に豊かな世界が広がっているのだ。
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