─先生が半導体レーザーの研究をお始めになったのはいつ頃からになるのでしょうか?
東工大の助教授になった1973年頃からです。1970 年頃というと,ベル研究所の林厳雄さんとモートン・パニ ッシュさんが半導体レーザーの室温連続動作に成功し,光ファイバーも低損失になるということが分かってきた時代でした。私の半導体レーザーの研究は,結晶成長装置を作るところから始めました。
もう一つの研究テーマとしては,画像を送るファイバーの研究です。そこからマイクロオプティクスに入ります。当時日本電気にいらした内田禎二さんや,日本板硝子の北野一郎さんが,屈折率が分布しているレンズを使 って画像を送る研究を行なっていて,私もその研究に取り組みました。それが平板マイクロレンズの発明につながって,微小光学という分野を作っていきます。私には研究の根っこが2つあって,一つはレーザーで,もう一つが光伝送です。
まず半導体レーザーですが,この頃,多くの研究者が取り組んでいたのが,端面発光半導体レーザーの長寿命化,ハイパワー化,長波長化・短波長化です。長距離光通信では,末松安晴先生が先導した1.5 μm単一モードレ ーザーのような形で今も使われています。また,中距離の光インターコネクトは,1.3 μ mの波長帯です。短波長帯の半導体レーザーでは,光ディスクに関して言えばCD用やDVD用の赤色半導体レーザー,Blu-Rayディスクでは青紫色半導体レーザーが使われています。これらは皆,端面発光タイプの半導体レーザーです。また大出力の広ストライプ半導体レーザーは加工にも適用されています。私の研究はというと,やはり他と同じことをや っていてはダメだという思いがあったのと,端面発光半導体レーザーに不満があったので,異なるアプローチを考えていました。
端面発光半導体レーザーの欠点だと思っているところは,劈開(クリープ)といって,ナイフを用いて割る工程があることです。これでは大量生産ができないのではないかと思っていました。ですから,モノリシックなレ ーザーの製造ができ,なおかつ単一モードで波長再現性の良いレーザーであることが必要と考えたわけです。この発想は私が6年間,原子時計の研究をやっていたから出てきたわけです。原子時計は周波数がいつも同じでないといけませんので,再現性が問われます。レーザーもそうではないといけないと思ったわけです。①モノリシ ック製造,②単一モード,③波長再現性の3つの要素を持った半導体レーザーが世の中にないなら,これは作るべきだといろいろ考えました。その結果が,面発光レーザー(VCSEL:Vertical-Cavity Surface-Emitting Laser)です。これを考案したのが1977 年3月22日です。この日は(一社)日本記念日協会によって,「面発光レーザーの日」に登録もされています。