─それは面白そうですね
そうですね。蛍光ってすごく面白いんですよ。私もNIMSの人たちが映像を作ってほしいとユーフラテスでオリエンテーションをしてくださった時に初めて知って驚いたのですが,私たちの身の回りにあるLEDライトはもともと青とか紫外線が出ていて,それを蛍光材料で白色光にしているということが,すごく面白いと思ったんです。
私もそうでしたが,世の中の大半の人はRGBのLEDで白色光を出していると思っています。たしかにち ょっと難しいんですけど,知っていてほしいんです。青色LEDがノーベル賞級の発明だったのは,白色光が蛍光材料で作れるからですよね。そういうことも本当に伝えたいと思って。NIMSの映像もそう思って作ったのですが,今回の展示や作品も使って,もっとみんなに蛍光について知って欲しいと思っています。
NIMSがユーフラテスに映像を依頼してきた理由というのが,そもそも材料研究という分野自体を子供たちが知らないので,それを知らせてほしいということでした。そこで制作した映像は,はじめ紫外線を浴びて白く発光する蛍光材料が映っているのですが,映像を逆回しにすると,RGBに発光する3種類の蛍光材料に分離されていく,つまりこれら3種の蛍光材料を混ぜることで白色に光る蛍光材料ができている,というものです。
「未来の科学者たちへ」へのYouTubeのコメント欄に,この映像を見て物質の研究をする科学者を志そうと思いました,というのがあって役目を果たせたのだと感動しました。今,応用研究がフィーチャーされていますが,材料って本当に大事な基盤だと思うんです。蛍光のように基礎の基礎だと思われていることから,こういう新しい表現を創り出したりできるのですから。
─さらに研究を深化させるために必要な物はありますか?
そうですね,蛍光材料はいろいろ試していますが,確かに素材レベルで共同研究するとさらに細かい調整ができて,探求をもっと進められると思います。プロジェクターもメーカーなどのパートナーと,いろんな表現を追求していけたらなと思っています。
今回,蛍光材料とプロジェクターという組み合わせが,たまたま手元にあったことで発見につながりました。この原理と作品をはじめて世の中に問うているので,それを受けて,どういうふうにこの技術,あるいはこの表現が世の中に貢献できるのか,反応として知りたいと思いますし,やっぱり教育の分野で世の中に貢献できたらうれしいですね。あと,展示を見て自分でも使ってみたくなるという声も多く聞かれました。
ただ,一つ理解していただきたいのは,私が今回発表しているものは単に面白い現象を発見した,ということではなくて,その現象でどのようなことが可能か,そしてどのような見せ方がもっとも美しかったり,最適であるかを追求した現段階までの成果としての「Layers of Lights/光のレイヤー」という表現作品群であるということです。
展示では,現象の発見から始まり,様々な表現手法を見出していくプロセスが時系列で分かるような構成になっていますが,その行間には多くの試行と,そこから得られた知見が潜んでいます。その結果だけを表層的に模倣されることで,この現象が消費されて作品の価値が棄損されるのは,作家として耐え難いことです。特許の出願も,一義にはSNSなどで容易にアイディアや技術が拡散されてしまう今の社会の中で,作品を守るための現状取りうる一つの手段として行なっています。
私もまだこの新しいメディアの表現手法はいろいろあると思っているので,さらに研究を続けて,このメディア上での表現と,メディアとしての拡張や応用,両方追求していきます。もし実用面で,協業できる企業や組織があれば,ぜひ活動をともにしたいと考えています。また,表現作品としての面では,これから先の展開として例えば価値観を同じくする若いアーティストやデザイナ ーと一緒に研究会方式で,ちょうど,佐藤雅彦先生が私と「差分」という書籍(佐藤雅彦,菅俊一との共著, 2009)を研究会方式で作り上げた時のように,このメディアを探究していきたいとも考えています。
※ 「光のレイヤー」の動画・カラー写真は石川氏のHPで公開中。
https://www.cog.ooo/lol/
(月刊OPTRONICS 2021年5月号)