光の層が生み出す新たな世界 ─ 蛍光によるプリミティブな表示デバイスの可能性

─三層あることで立体的に見えますね
出願特許図面(提供:石川将也氏)
出願特許図面(提供:石川将也氏)

この独特で如実な立体感が面白いのと,いわゆる立体ディスプレーは眼鏡が必要だったり,見える角度が決ま っていたりといろんな制約がありますが,これは三層で色が決まっている以外は,どこからでも,何人でも見られるというメリットがあります。

あと,実装がシンプルです。それで特許をとれるのではないかということで,去年の12月に出願(特願2020-206990)しました。また平行して,メディア芸術クリエイター育成支援事業(https://creators.j-mediaarts.jp)の国内クリエイター創作支援プログラムに応募し,この表現方法をアートとして追求していくというプロジェクトで採択されました。この育成支援のもと,今回いろいろ作品を作り,展示を通してはじめて世の中に見せることができました。

─他にどんな表現がありますか?
スクリーンを立体にすることで,像が剥がれるような効果が表現できる
スクリーンを立体にすることで,像が剥がれるような効果が表現できる

最初は白色光の映像を三層に分けましたが,映像の色を変えることで任意の層に映像を出すこともできますし,一層のスクリーンでも,スクリーンの造形を工夫することでまた別の表現が可能になります。例えばスクリ ーンを坂のように曲げてやれば,だんだん高さが増すにしたがって,蛍光板の像と透過した像が離れていきます。そこにペリペリと剥がれるような音を付けて像が剥離していく様子を表現してみました。

他にも,素早くRGBを切り替えると層の間を像が移動するアニメーションが作れます。層と層の間隔を不均等にすることで,ジャンプする物体のスピードが重力で加減速する感じもアニメ ーションで表現できます。

─明るい環境でも見えますか?
3層の光が重なり合い不思議な立体感が生まれる
3層の光が重なり合い不思議な立体感が生まれる

残念ながらプロジェクターの輝度が低いというのも制約の一つです。もっと明るいものが使えれば,さらに多彩な表現ができると思います。だたし,その制約を逆手に取るというか,うまく利用してかつ人間の認知の力,認知科学の知見を使うことでスペック以上の表現をできるのが面白いところです。私はファミコン世代ですが,昔のゲームやテレビは解像度が低いところから発展しています。

そこでは作り手が受け手の想像力や認知の力を使 ってスペック以上の表現を実現してきたわけですが,どんどんメディアが発達してくるとそうした工夫は少なくなり,例えば映画やゲームの3D-CGのように,いかにリアルに現実のように描くかといったことが理想のように思われています。でも実際は,もっと多様な表現形態があって,たとえ情報が足りなくても人間はそれを補って理解できてしまう,というところが面白いと私は考えています。

私の作り出したこの「光のレイヤー」というメディアはリアルな立体映像とは対極にあります。汎用的で完全な立体ディスプレー(例えばスターウォーズに登場するような)を端から目指しておらず割り切っている。それでも新しくて面白い表現ができる,ということなのです。

新しい表現を作ることができて,しかも見ていると自分の認知能力が使われている感じがすごく伝わります。メディアと人間の関係というものを示唆するメディアアートとして機能するんじゃないか,メディアとは人間にとって何なのかを問いかけるものになっているのではないかと思っています。

一方で,この展示は光の3原色の理解にもつながりますし,すごく教育的だとも思っています。光ってニュートンのプリズムのように,みんな並行的に色があるっていうイメージを持つと思うんですけど,波長として見ると一つの波の振幅の違いですよね。

それを光をろ過するように波長の短い順にカットしていく様子を見せられるので,光というものに対する見方が変わるんじゃないかなと思います。そういう意味では,ゆくゆくは科学館とかにも置いてもらえるような展示にしたいと思っています。

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