─LIDARの調査に問題点はありますか?
LIDARのデータは色々と加工,プロセスされるので,例えばここに建造物があったはずなのに消えているということもありえます。僕らは現地の遺跡を歩いているので,ヒューストン大学のチームと掛け合いをしながら,ここはちょっと直してほしいとか,ここにこういう建造物があったはずだとか,注文を付けられます。
これは信頼関係があるからこそできる作業で,お互いに切磋琢磨しながらより良いLIDAR画像というものを作り上げていくことが重要です。つまり地上の調査経験は非常に重要で,最終的には自分の眼と足で確かめなくてはいけません。
ただ単にお金を払っておしまい,ではなくて,デ ータをプロセスしてもらった後に色々と注文を付けながら,お互いに納得いくものを作り上げていくわけです。
─今回はハンドヘルドの蛍光X線装置も持ち込まれました
かつて出土品の産地特定に使われていた蛍光X線装置や中性子放射化分析装置は巨大で持ち運びができるようなものではありませんでしたが,最近は持ち運びができるハンドヘルドの蛍光X線装置が登場しています。私は若い頃,肉眼で98%くらいの精度で黒曜石の産地がわかったのですが,50代になり老眼が進んでその精度がにぶってきた頃,ちょうどいいタイミングでこの装置が登場してくれました(笑)。
例えば黒曜石や翡翠製の出土品は非常に重要な文化財なので日本に持ってくることが困難です。だから逆に機械を持っていくことによって,現地で分析をしようということです。この装置はメソアメリカでも何人かの研究者が使いはじめていて,お値段も研究費でまかなえる600万円くらいです。
これによって,現地で黒曜石の産地を調べてその交易圏がわかるようになりました。中性子放射化分析は遺物を破壊しないと分析できませんでしたが,ハンドヘルド蛍光X線分析計は貴重な資料を非破壊で分析できるというのも大きなメリットだと思います。
そういう意味では私の研究と光学には深い関連があると言えます。石器などは,実際にどのように使っていたのかは高倍率の金属顕微鏡で使用痕を見ないとわかりません。金属顕微鏡も昔はけっこう大きかったのですが,オリンパスに特注で組み立て式の小型のものを作ってもらい,特注のジュラルミンケースに入れて持っていけるようになりました。
LIDARやハンドヘルドの蛍光X線装置はわりと最近ですが,金属顕微鏡は学生だった1980年代から使っているので,けっこう長い付き合いになります。
─マヤ文明はどんなことを我々に教えてくれるのでしょうか?
アメリカの一部のメディアがすごいことを言っていて,「アグアダ・フェニックス遺跡が栄えたということは,強大な中央権力者がいなくても民衆の力だけで文明を築くことができた証で,国家に強力な政治家は必要ない」と。流石にそこまではいかないと思いますが(笑)。
ただ,支配者がやれ!やれ!と言って皆に強制的に造らせたのではなくて,巨大な公共祭祀施設,そういうものを造らないといけないという共通のゴールや,理想,イデオロギー,宗教的な観念が皆に共有されていたので,こうした巨大な公共建築が造られたのだと思います。マヤ文明は鉄器を使わない石器文明で大型の家畜もいませんでした。
全て人の手でこれらの巨大な建造物を作ってきたのですが,そういう大きなものを共同で造ることで,集団の統合とかアイデンティティが形成されたのでしょう。
私はマヤ文明の起源を知ることは,人類の文明の起源を探求する上でも非常に重要だと思っています。
(月刊OPTRONICS 2021年1月号)