以上,ご紹介したのは,いずれもビーム走査を機械駆動にて行なうことを意図していますが,我々は電気的に2次元ビーム走査できるフォトニック結晶レーザーも開発しています。このレーザーではビームを走査するための情報をフォトニック結晶に書き込んでいます。具体的には,様々な角度にビームが出るように孔の大きさを変えたり,位置を変えたりするなど工夫をしています。もちろん,パワーも出てビーム品質も上がるように設計してあります。
今回,10×10個(解像点数100点)のマトリックスアレイ構造のフォトニック結晶レーザーチップを作製しました。このレーザーでは2つの方向にビームを同時に出すことができますし,駆動の仕方によっては4つの光を同時に別々の方向に出すこともできます。さらにこのレーザーはワットクラスの光を出力します。今回のチップのように,解像点数が100点であっても,フラッシュ型のLiDARと組み合わせた,新たな興味深いLiDARシステムが可能なことを,ブルックマンテクノロジ(株)とともに見出しました。また,チップ面積をわずか4倍増加するだけで,解像点数が900倍,すなわち,90,000点に出来ることも見出しています。
なお,非機械式のビーム走査の他の方法としては,外部光源から入射したレーザー光に対し,アレイ化アンテナのフェーズを変化させて様々な方向にビームを出射する,オプティカルフェーズドアレイアンテナ方式がありますが,一般には,シリコンを用いて作製されるために外部光源からミリワット以上のパワーを入れると,二光子吸収を起こして動作しなくなるという課題があります。また,サイドローブが多数発生したり,外部光源の波長を大きく変化させなければならないなどの多くの課題を抱えていると言えます。
─今後の研究の方向性についてお聞かせください
上記は,主にスマートモビリティ向けのLiDAR応用について説明しましたが,今後,スマート製造へも展開させていきたいと思っています。連続動作において,フォトニック結晶レーザーの輝度を,炭酸ガスレーザーの性能以上まで増大することを目指しています。つまり,現在,パルス動作で600 MWcm-2sr-1が実現できていますが,これを連続動作にて,1 GWcm-2sr-1を達成したいと思っています。これが実現できると,ファイバーレーザーの性能にも近づきますので,炭酸ガスレーザーやファイバーレーザーに,とってかわり,超小型の加工レーザーシステムが実現出来ると期待出来ます。現在,加工用ファイバーレーザーは海外の企業が強みを持っていますが,高出力フォトニック結晶レーザーの実用化で日本が再び優勢になることが期待されます。
さらに,フォトニック結晶レーザーは,理科学分野でも様々な応用があると考えられています。先ほども申し上げた通り,半導体レーザーは,ビームが非対称に拡が ってしまうことや,スペクトル線幅が広いことなど,理科学用で使うには色々と課題がありますが,フォトニック結晶レーザーは,上述のようにビームが綺麗で拡がらないことに加え,そもそも大面積で単一モード動作するので,スペクトル線幅は原理的に大変狭いものになると期待されます。コヒーレント性を利用した様々な応用にもつながるものと期待されます。また,青~青紫色波長領域,緑色波長域,さらに光通信波長域もすでに共同研究企業とともに,研究をスタートさせています。夢を語るとすれば,すべてのレーザーがフォトニック結晶レーザーに置き換わることを願っていますし,そうなることに期待しています。
(月刊OPTRONICS 2020年10月号)