─ここにLIDARは何機あるのですか?
現在,東京航空地方気象台で運用しているLIDARは2機です。成田国際空港と関西国際空港にも1機ずつ設置していますが,東京国際空港は敷地が広いため2機設置しています。
LIDARで観測するメインのデータはドップラー速度になります。LIDARが観測しているのはエーロゾルと呼ばれる大気中に浮遊しているチリなどの動きです。ごく細かいチリに対して1550nm帯のレーザー光を出し,チリに反射したレーザー光から周波数の変化であるドップラーシフトを観測することで,その粒子がLIDARに対してどれくらいの速度で近づいてきているのか,それとも遠ざかっているのかが分かります。これがドップラー速度です。
ドップラー速度を解析する事により,風向と風速を観測する事ができます。気象庁のLIDARでは半径10kmまでのドップラー速度のデータをもとに,風の流れをリアルタイムに観測しています。航空機は風の急変に対して弱く,着陸時に急に追い風になったりすると墜落の恐れがあります。そういった風の急激な変化を検出した情報も,管制官や航空会社に配信しています。危険度が高いものについては,管制官からアラート情報が発表され,注意が喚起されます。
LIDARが入る以前から,こうした風の観測は小さなプロペラ機のような形をした風向風速計やDRAWを使って行なっていましたが,風向風速計は設置した場所1点の風しか観測できないため,面的な風の流れまでは分かりませんでした。
また,DRAWではLIDARと同じく面的な風の流れを観測できますが,降水粒子のドップラー速度を観測しているため,雨が降っていないと風の観測ができません。
─LIDARは天候によらず観測が可能ですか?
LIDARには雨という弱点があります。晴天時にはだいたい10kmくらい先の様子まで見えていても,雨が降ったり霧が出たりするとレーザー光が散乱して観測距離が短くなってしまうことがあります。
またまれですが,大気中のチリを見るという原理上,空気が非常に澄んでいる日はチリの数が少ないため,晴天なのに観測距離が短くなってしまうこともあります。観測は24時間行なっていますが,昼夜の違いは特に影響しません。
逆にDRAWはLIDARが苦手な降水粒子を観測しています。LIDARが大気中のチリの動きからドップラー速度を観測しているのと同じように,DRAWは降水粒子に電波を当てることでドップラー速度を観測し,風の急変などを検出しています。風の状況を把握するという意味では,晴れているときはLIDAR,雨が降っている時はDRAWの観測データを使用することにより,全天候に対応した観測システムとして運用しています。
─LIDARではどの様な観測していますか?
観測パターンは1号機と2号機で多少異なります。気象庁のLIDARはPPI(PlanPositionIndicator)とRHI(RangeHeightIndicator)2種類のスキャンが可能で,これらを組み合わせて観測を行ないます。
PPIはLIDARの仰角を固定して方位角を360°回転させて周囲を観測する手法で,逆にRHIは方位角を固定し,仰角を0°~180°動かすことで鉛直方向の観測をします。
1号機はPPIによって主に北風の時に航空機が進入してくるA滑走路南端を重点的に観測し,2号機はRHIも使って上空方向の観測も行なっています。1,2号機共に約2分をかけてプログラムされたパターンの観測を行なっています。