1. はじめに
商用超高安定レーザーシステムは,最高の周波数安定性と最低の位相ノイズに加え,信頼性が高い自動化可能な動作を全てのポータブル装置において24時間提供する。これによって,以前は制御された実験室条件が必要であったアプリケーションへのアクセスが簡素化される。光周波数コムの技術的進歩とともに,この新世代の完全な量子システムは,量子革命2.0を加速する。

2. 超高安定レーザーシステムの特徴
原子系における極めて狭い線幅の遷移を制御できるようになったことで,量子科学技術における科学研究は爆発的な成長を遂げようとしている。スペクトル線幅の狭い超安定光源は,このような実験において最も重要なコンポーネントの一つである。この光源は,永続する励起状態の系における狭い遷移を研究するために必要である。レーザーを能動的に安定化させる方法として確立されているのは,出力周波数を基準と比較し,得られたビート信号を用いてレーザーのパラメーターを制御することである。この目的のために,非常に安定した光基準共振器の選択された共振周波数を使用することができる。
このような共振器安定化レーザーシステムは,従来,制御された実験室環境でのみ使用されてきた。しかし,量子革命2.0のアプリケーションでは,ターンキーで持運び可能なレーザー光源が必要となる。すべてのシステム・コンポーネントを注意深く選択した最先端の商用ソリューションは,優れた使いやすさとモバイル・アプリケーションの可能性という付加的な利点とともに,近年性能を最高レベルに押上げている。
メンローシステムズの超高安定レーザーシステム“ORS”製品群は,周波数基準として高精細Fabry-Pérot共振器を使用している(図1)。スペーサーとミラー基板は膨張係数の低い特殊ガラスを採用し,温度による共振器の長さの変化を防いでいる。材料の膨張が消失する範囲が室温のため,複雑な熱管理は不要である。共振器は超高真空中で動作し,温度や圧力の変動,機械的な振動から保護されている。システムのスペクトル線幅は1 Hz未満であり,分数周波数安定度は7×10–16を超える。これは,複雑で高コストな実験室のセットアップに匹敵する。商用ソリューションは,時間と人件費を大幅に削減し,科学の進歩に焦点を当てることができる。

狭い原子遷移の励起だけでなく,超安定レーザーは他のレーザーシステムの安定化にも頻繁に使用さる。これには光周波数コム(OFC)が必要とされ,コヒーレンスを失うことなく,超高安定レーザーのスペクトル純度をすべてのコムラインに伝達できる。広いスペクトル範囲にわたって,個々のコムラインは他のレーザーの基準として機能するため,多くの異なる原子種を分析することができる。超高安定レーザーとOFCを完全なシステムで組合わせるという最近の技術進歩により,メンローシステムズは量子科学のアプリケーションのための完全なソリューション“FC1500-Quantum”を開発した。
量子産業向けの複雑な装置(図2)の商用化が,通信やナビゲーションから医療や基礎研究まで幅広い分野に新たな可能性をもたらし,新たなアプリケーションを開拓していることは疑う余地がない。新しいアプローチは,既存の手法を簡素化,あるいは置換える可能性を秘めている。その顕著な例として,光クロック技術を用いたSI秒の再定義が計画されている。遠く離れた量子発振器を比較する場合,装置の不安定性が時間測定に影響しないことが不可欠である。近年,商用超高安定レーザーを用いて,光格子内に多重配置された2つのストロンチウム時計を比較したところ,8.9×10–20の相対不安定性が実証された1)。これは3,000億年に1秒しかずれないことに相当する!
