3. 像形成の物理光学
幾何光学の章では理想的な結像がどのように行われるかについて説明した。光にはもう一つの見方として物理光学があり,光工学では両者をミックスして考えねばならない。本章では結像における物理光学の根幹をなす基礎概念について説明する。
3.1 結像における物体
幾何光学では結像について取り扱った。そこで前提となった物体とは何を意味するのであろうか。2つの種類の結像が知られている。
一つは星のように自己発光している物体の結像である。日常我々が観察している物体も照明されて反射することで,個々の点が自己発光するのと等価と考えることができる。物体を形成するパターンの各点が独立なので像面では互いに干渉せずに重なり合う。このような状態をインコヒーレント結像という。
これに対しコヒーレントな結像が存在する。顕微鏡や半導体露光装置の場合は物体を構成している隣接のパターン間で干渉が発生する。結像を像側から物体側に辿っていく時,インコヒーレントな場合の議論は物体で終了するが,コヒーレントな場合は物体で完結せず,更に辿って光源まで行き着かねばならない。パーシャリーコヒーレント結像はコヒーレント結像の一種である。
インコヒーレント結像もコヒーレント結像の極限状況として位置づけられるので,両者は統一して扱うことができる。ただインコヒーレントの場合は干渉性を無視できるため,系を簡略化した扱いができる。以上の観点から本章ではコヒーレント結像で起こる現象を出発点とする。
図1のように物体をガラス基板上に形成されたパターンとし,それをレーザービームで光で照明した場合を考える。パターン無しの場合は照明光はそのままガラスを通過していく。これに対しパターンがある場合はパターンで照明光が散乱を受けて拡散する。パターン情報を散乱光が担っていることが重要である。
グレーティングのような周期性物体では散乱光の分布が0次光,1次光,2次光,…と離散的になる。ガラス基板の下に絞りを設けて散乱光をカットし0次光(直接光)のみ通すと,検出される光にはパターン情報が無くなり,左図の何もない状態と同じになる。散乱光検出の重要性を示すものである。
このように物体情報は散乱光と密接に結びついている。結像で必須要件だった複数の光線の存在は,直接光や散乱光の存在と深い関係を持ち,物理光学的結像論の基礎となっている。
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