2.4 結像とは
結像とはどういう意味かを考えてみる。均質な空間に異なる点AとBがある時,AからBにいたる光線は2点を直線でつないだ1本である。ところが光学素子の光を曲げる機能を用いると,図14に示す特殊状態を実現できる。即ちAとBを通る光線が無限本ある状態で,これが結像の基本概念である。無限本の結像光線を多少省いても結像自体には関係ない。カメラやスマホで写真を撮影する時,レンズに指がかかって多少光線を遮っても像はできるし,カメラで絞りを動作させても像が見えなくなることは無い。
結像機能が網膜を含めた画像系として人間に備わっていたのはいくら進化論があると言っても奇跡と言うしかない。ただし,透明人間の目視機能は光を曲げる結像作用が利用できないので別である。
結像では光を何らかの形で曲げなければならない。これが収差論という光学特有の理論を発達させた。収差とは結像する光線がB点からずれてしまう不完全性である。
実際にB点に光が集まって像ができるのが実像で,ここに撮像素子を置けば画像に変換できる。物理的に結像していなくても,あたかもB点から光が出ているように見える場合は虚像と言われる。例えば眼鏡で見ているのは虚像である。
レンズは古代メソポタミア時代から知られていたが,本格的な発展は望遠鏡の寄与が大きい。望遠鏡は1600年頃,オランダの眼鏡商が顧客がレンズを組み合わせてチェックしているのを見て発明したとされる。本当の発明者はその顧客かもしれないが,当時はレンズを光軸という1本の仮想線に沿って並べる構成すら新規であった。
光軸に沿ってレンズのような回転対称素子を配置するのは素晴らしい工夫で,以降の光学系はこの原理を踏襲することになった。観察中心と対象物体を結ぶ軸を中心に画面を広げるのは自然な考え方である。
最近は回転対称性を前提としない自由曲面の光学系も探索されるようになってきた。技術の進歩により,複雑な曲面でも加工/計測が可能になった結果である。しかし,それでも回転対称光学系が主流なのは,自由曲面のメリットに見合った応用がまだ少ないからである。回転対称性は構成自体で自動的に幾つかの収差項を除去できる特徴から,依然として光工学の中心であり続けている。
理想的な結像は数学的には拡がりを持った面に対する共線写像の射影変換で,物体と像の関係が相似になる。光学系と電気系のアナロジーはよく議論されるが,光学系に特有なのはパラメータが2次元となることである。電気系が時間と周波数という一対の対応なのに対し,光では画面の大きさが(x,y),電気の周波数に相当する角度分布ωも(ωx,ωy)という2対のパラメータで示される。この2次元性が光のメリットで,高速の並列画像処理に道を開いた。
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