3. 水平チャネル内流れにおける壁面摩擦の計測6)
本研究では高時間分解能型のせん断応力計と高速度カメラを用いた同時計測による流体計測を行った。さらにせん断応力の瞬間的な変化と気泡群の通過の関係性を調査するため,せん断応力と気泡の通過頻度の時系列データに対し,4象限分類による変動値の評価方法を提案する。これにより人工的に形成されるボイド波の局所的な時空間変動による壁面せん断応力の変動特性を4象限の分布より評価し,各象限における周期的注入気泡による低減効果の詳細な調査を行っている。本実験で使用した海上技術安全研究所で所有する微小気泡用小型高速流路の模式図を図5に示す。ここでは,レーザー応力計で計測できる範囲のみ,つまり乱流場と気泡が混在した流れ計測の実施がわかる範囲の説明とし詳細を省略する。
同期計測した時間変動による投影ボイド率αpと壁面せん断応力τの関係を示す。第一縦軸はτ,第二縦軸はαp,横軸は経過時間を示す。αpとτの関係を4象限に分類し,各象限に出てくるプロットの分布より評価する。
気泡の面積割合を投影ボイド率αpとし,x–z平面を移動する気泡の通過を評価した。本解析におけるバルクボイド率α,および投影ボイド率αpの定義式を以下に示す。
Qairは注入する空気流量[L/min],Qlは作動流体の流量[L/min],Sairは気泡投影面積[mm],Ssensorは変位計受感面面積[mm]である。
実際の気泡の写真を示す。高速度カメラを用いて得られた気泡流の時間展開画像を図6に示す。図には軸があり,縦軸はチャネルのスパン方向長さ,横軸は経過時間である。図6(a)は連続的に一定の空気流量を注入した連続注入気泡の可視化画像であり,流路全体に気泡の一様な分布が確認できる。図6(b)〜(d)は周期的注入気泡の可視化画像である。2,4,6 Hzの周期で電磁バルブの開閉を行い,気泡を間欠的に流路内に注入する。図6(b)の時間展開画像では間欠気泡注入による気泡の有無がはっきりと見えており,図6(c),(d)の画像の濃淡があり,流れ方向(時間方向)に気泡の粗密が生じることを確認した。
4象限分類の方法及び各象限における物理量を図7に示す。縦軸にせん断応力の変動値,横軸に投影ボイド率の変動値を示しており,それぞれ標準偏差σで無次元化した値である。ただし,各象限に記載されている数値は象限にプロットされる割合を示しており,微小な変動に対する影響を除外するため各軸に対して–0.5<σ<0.5の範囲(図中斜線の領域)を除去した割合を示す。
Re=7×104のときプロットされる割合が第1と第4象限に偏った。連続注入気泡の場合,高速に流れる気泡の通過量の変動がなければ,気泡流は一様になるためボイド率の変動値の分布は一定になると予想されたが,本実験においてボイド率の変動値は標準偏差の2〜3倍となった。第1と第2象限を比較すると第1象限に分布する割合が大きくなり,ボイド率の正の変動値は気泡の通過を示し,せん断応力を増加させるときに寄与する割合が大きくなることが分かる。一方,第3と第4象限を比較すると第4象限に分布する割合が高くなった。同様に考察すると,第4象限は気泡の通過がせん断応力の減少に寄与する。
次に周期的注入気泡による気泡の注入周期を変化させた結果である(図8)。連続注入気泡では第3象限の割合が20%を下回っていたのに対し,周期的注入気泡では2,4 Hzの条件において第3象限の割合が連続注入気泡の結果より大きくなった。また,周期が短くなるにつれて第3象限に分布する割合が減少した。これは注入する周期が短いほど気泡の粗密の差が小さくなり,連続注入気泡の状態に近づいているためである。また,第3象限はボイド率の変化が小さいときにせん断応力も小さくなり,周期的注入気泡では気泡とせん断応力の関係が連続注入気泡と異なる関係性を得た。
プロットの割合の多い象限に着目する。このとき,気泡を注入する周期が2 Hzでは第1象限の割合が高く,4 Hzでは第4象限の割合が高い。つまり,2 Hzの条件は4 Hzの条件とは異なり,分布する割合が逆転した。これは注入する周期の違いにより気泡がせん断応力へ与える影響の割合が第1象限から第4象限へとシフトしていることを示す。このように高い時間分解能を有するレーザーせん断応力計により,乱流のときの変化のある条件における成分を抽出可能になった。