5. 検出した照明位相を用いた空間周波数再構成
まず,構造化照明をステッピングモータによりシフトさせ,顕微鏡で画像を取得すると同時に,その位相変化を低コヒーレンス干渉による干渉信号の変位として検出した。なお,干渉信号検出のための画像は低解像度で十分なため,顕微鏡画像取得に対して十分早いフレームレートでの取得が可能である。図8に位相検出のための低コヒーレンス干渉縞画像を示す。構造化照明顕微法における空間周波数再構成処理においては,位相変化の絶対量ではなく初期画像からの相対的な変化量が決定できればよい。そのため,図8(a)が初期位置,図8(b)は初期位置からのステッピングモータ駆動量(指令値)0.1μm,図8(c)は同様に0.2μmにおける取得画像となる。これらの干渉信号も低コヒーレンス干渉に基づくため,光路差ゼロにおいて干渉コントラストが最大となることを利用して,干渉信号の変位を求めることができる。
さらに,干渉信号の変位は試料上での構造化照明のシフト量に対応するため,構造化照明の位相変化を算出することが可能となる。ここで,光源波長および入射角から算出した(別途実験的にも確認した)構造化照明のピッチは,0.473μmであることを考慮すると,図8(a)から図8(b)への位相変化量は1.33 rad,同様に図8(a)から図8(c)への位相変化量は2.66 radと算出できる。一方,低コヒーレンス干渉信号を処理して得た変位量を基に算出すると,図8(a)から図8(b)への位相変化量は6.33 rad,図8(a)から図8(c)への位相変化量は4.98 radとなった。これは,ステッピングモータの位置決め精度が低いこと(1μm程度)の他,振動等の外乱の影響によるものと考えられる。
特に,図8(b)から図8(c)にかけては,ステッピングモータ駆動方向に対して逆方向の位相変化が表れており,バックラッシュの影響によるものと考えられる。空間周波数再構成のためには,顕微鏡画像取得時の構造化照明の位相が分かればよい。しかし,ステージ駆動量から位相変化量を保証するためには,高い位置決め精度と振動抑制が必要であり,製造現場での実現には困難が伴う。
一方,干渉信号から位相変化量を算出する場合は,顕微鏡と干渉信号の画像取得が同期していれば良いため,実現は比較的容易である。つづいて,分解能測定用のシリコンドットパターン(図9,NTTアドバンステクノロジ製)を用いて,検証実験を行った。実験条件を表1に示す。観察試料は2.2μm(XY方向)と0.4μm(Y方向)の2種類のパターンピッチを有しているが,観察系の回折限界(レイリー指標)が0.74μm程度であるため,ピッチ0.4μmは解像することができない。図10に構造化照明のシフト毎に取得した顕微鏡画像を示す。
図10(a),(b),(c)の取得は,それぞれ図8(a),(b),(c)と同期している。ここで,2つに分離したドットペアが部分的に見て取れるが,これはモアレ効果によるものであり,分解能が向上したわけではない。これらを用いて空間周波数再構成を行った。再構成処理への入力は,構造化照明のピッチや取得画像3枚の他,構造化照明の位相変化量である。図11にステッピングモータへの指令値から算出した位相による再構成結果①(中央),干渉信号から検出した位相による再構成結果②(右)を回折限界画像(左)と共に示す。空間周波数再構成により空間分解能が向上し,回折限界より小さいピッチ0.4μmが解像できていることを確認した。再構成結果①ではドットペアが分離されているが,試料のドットパターンと対応しておらず,アーチファクトが発生した。一方,再構成結果②では,各ドットペアが正しく分離されており,提案手法の有効性を確認した。
6. おわりに
製造現場での高分解能観察を目的として,低コヒーレンス干渉型構造化照明顕微鏡を開発した。位相検出機構を導入することにより,振動やステージのバックラッシュ等の外乱の影響下においても高分解能化を実現した。なお,本研究は科学研究費補助金(課題番号:16H06063)の支援,静岡大学工学部機械工学科三浦・臼杵研究室の協力の下行われました。ここに感謝申し上げます。
2)N-SIM:http://www.nikon.com/products/instruments/lineup/bioscience/s-resolution/nsim/
4)Takeshi Terao, Tomohiro Takada, Shin Usuki and Kenjiro T. Miura, Proceedings of 16th International Conference on Precision Engineering, (2016).
■Research Institute of Electronics, Shizuoka University, Associate Professor
所属:静岡大学 電子工学研究所 准教授
(月刊OPTRONICS 2018年3月号)
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