2. ナノアンテナ構造シリコン赤外検出器
われわれは現在,金属微細パターンとして,ナノサイズのアンテナ構造を有した赤外光検出器の研究開発を進めている。図1(a)がナノアンテナ構造体の模式図である。林立したアンテナ構造が赤外光を吸収する役割を果たしている。ここに入射した光を,電流もしくは電圧信号として検出する。現在の設計では,ナノアンテナ構造の断面直径が数100 nmであり,高さが1.0 μm,アンテナ間のピッチが2 μmである。アンテナ単体は,芯の部分がn型シリコンで構成され,表面に金薄膜が成膜されている。なお,金はシリコンとの密着性が悪いので,金とシリコンの間に密着層としてクロムをごく薄い5 nm程度成膜している。
光検出はアンテナ構造による光吸収と,光電流生成の2つの過程からなる。まず前者から説明すると,入射した赤外光は,アンテナ構造の金表面に発生する表面プラズモン共鳴によって吸収される。表面プラズモン共鳴とは,誘電体(この場合は空気)と接する金属表面の自由電子の集団的な共鳴のことである。入射した光の振動数と波数(波長の逆数)が,表面プラズモン共鳴のモードと合致したときに,入射光が表面プラズモン共鳴を励起するものである。励起条件が存在するので,任意の入射光に対して常に光吸収が生じるわけではなく,アンテナの構造寸法に応じて,吸収されやすい波長や偏光などの差が生じる。表面プラズモン共鳴が生じると,光エネルギは自由電子の振動に吸収されることで,金属中の自由電子に受け渡される。
次に,光電流生成の過程を説明する。吸収された光エネルギは,クロムとn型シリコンの界面に形成されるショットキー障壁によって,光電流に変換される。ショットキー障壁は,金属と半導体が接触すると形成される,整流作用を示すエネルギ障壁である。例えば,クロムとn型シリコンの場合には図1(b)に示すエネルギバンド構造を形成する。ダイオードとしてみた場合,金属がアノード側,シリコンがカソード側となる。光エネルギを吸収して高いエネルギ状態となった自由電子は,エネルギ高さΦBのショットキー障壁を乗り越えて,電流として検出される。以上が,基本的な光検出の過程である。
自由電子が障壁を乗り越えるためには,光から受け取るエネルギhνがショットキー障壁の高さΦBよりも大きい必要があるため,障壁高さΦBは検出可能な波長の上限値(カットオフ波長)を定める。一般的に,ΦBは金属とシリコンの材料の組み合わせで決定され,今回のようなクロムとn型シリコンの界面には,0.6 eV程度の障壁が形成され,カットオフ波長は約2.1 μmとなる。これにより,シリコンベースのデバイスであっても,赤外の光を検出することが可能となる。