1. はじめに
赤外光は通信波長帯として利用される。また,その波長帯にはグルコースやヘモグロビンなど,生体物質の吸収も存在する。さらに,近年では,近赤外波長帯を用いた距離計測などがロボット分野などで広く使われている。このように,赤外波長帯では光検出器やイメージャが盛んに研究されている波長帯である。本項は,このように近年ニーズが高まっている,赤外光を検出する,安価かつ高機能化が可能な検出器の研究とその進展について述べる。
ただし,シリコンはバンドギャップが約1.1 eVであり,赤外光のエネルギと比較して大きいため,シリコン単体では1.1 eVに相当する波長である1.1 μm以上の長波長の赤外光を検出することができない。そのため,長波長の赤外光検出には化合物半導体が利用されるという,材料の制約がこれまで存在していた。しかし,仮にシリコンで赤外光を受光できるデバイスが構成できれば,MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)や可視イメージャと融合して,高機能なデバイスを提供できると見込まれるので,非常に魅力的である。
こうしたなか,近年,金属とシリコン界面に形成されるショットキー障壁を利用したシリコン型の近赤外光検出器が報告されており,CMOSプロセスと整合性のある赤外光検出器を構成する方法のひとつとして有望視されている1)。この原理に基づいた光検出器は,シリコン基板上に赤外光と共鳴する微細な金属パターンを形成することで,検出器表面に入射した光を表面プラズモン共鳴により効率よく吸収する。金属材料としては,表面プラズモン共鳴に適した,金などの貴金属が広く利用されている。
そして,吸収した光エネルギを金属とシリコンの界面に形成されたショットキー障壁で電流に変換することで,近赤外光を電気信号として検知している。原理的には,フォトダイオードの一種に分類されるもので,原理自体は1980年代から知られているものだが,近年のナノ加工技術の発達によって,光吸収に優れた微細金属パターンが形成可能となったので,注目が集まっているものである。われわれのグループもこの原理を利用したシリコン型赤外光検出器に取り組んでおり2),特に実用化を考慮した安価かつ大規模生産可能なプロセスへの適用の研究開発を進めている3, 4)。本項ではこれらの研究開発の取り組みと,その応用展開デバイスの例を紹介する。