4.EUV・軟X線集光ミラーへの応用
高精度ミラーの中には,形状転写による方法でしか作製できないものがある。その一つが軟X線用の回転体ミラーである。図5に回転体ミラーの一つである回転楕円ミラーによる軟X線集光を示す。このミラーは,内面において回転楕円の形状となっており,一つの焦点が光源でありもう一つが集光点になる。ミラー内側の表面をX線が反射し集光する。軟X線を集光するミラーとしては,色収差がない,高集光効率,大開口という特徴をもつ優れた光学素子と考えられていた。しかしながら,内側の表面において前章で示した高い精度が必要であるため,作製技術がなく実現されていなかった。
そこで,これまで開発していた高精度電鋳法を適応した。図6に回転体ミラーの作製プロセスを示す。ミラーの反転形状をもつマスターマンドレルを高精度に作製する。その後,これまで開発した電極形成,常温電析,分離の流れで電鋳を行う。回転体であるため分離の際には電析物からマスターを引き抜く必要がある。マスターは石英ガラスであり電析物はニッケルである。
水中で加温すると,ニッケルの膨張が石英ガラスの膨張よりも大きいため,容易に分離できる。図7は,周方向のプロファイルにおいて転写精度を比較したものであり,50 nm以上の精度で形状転写ができていることがわかる。
これまでSPring-8での軟X線集光,X線自由電子レーザSACLAのEUVFEL集光,高次高調波EUV光の集光のため,回転楕円ミラーを作製している。ここでは,高次高調波EUV光の集光の例を示す。高次高調波は,高強度のフェムト秒赤外レーザを希ガス中に集光することで,50次以上の高調波が発生し,その波長はEUV領域に至る。図8は,高次高調波EUV光の集光光学系である10)。
図9に,高次高調波の波長スペクトルと集光プロファイルを示す。反射ミラーによる集光の場合,色収差がないため,すべての波長の高次高調波を1点に集光できる。理想的な集光ができた場合,今回の条件では500 nmのサイズであり,ほぼ理想的に集光可能であることがわかった。
非集光に比べて,集光点における集光強度は100万倍以上に達するため,高次高調波による光電子分光など様々な応用が可能である。また,高次高調波発生の分野ではアト秒パルス発生の研究が盛んである。単一アト秒パルスを発生させるためには,ブロードな波長帯域のEUV光を利用する。今回開発した集光光学系は色収差がないためアト秒パルス光の集光にも適応できる。