量子光コヒーレンストモグラフィ ─量子もつれ光による超高分解能光計測の実現に向けて

3. 超広帯域量子もつれ光の発生

 量子OCTの分解能を高くするためには,光源である量子もつれ光の帯域を広げる必要があることは先に述べた。量子もつれ光の発生においては,バルク非線形結晶や分極反転光デバイスが多く用いられる。しかし光の出射角度が波長に依存することなどから,超広帯域化は容易ではなかった。その問題を克服するための提案がいくつかなされ,我々も複数のバルク非線形結晶を用いた広帯域化の提案と実証を行った15)

その中で我々が注目したのが,S. E. Harrisが理論提案した,分極反転周期をチャープさせた分極反転光デバイスである16〜18)。このデバイスでは,分極反転周期が,ポンプ光入射側から徐々に長くなっていく。発生する2つの光子の波長は分極反転周期によって決まるため,広帯域な量子もつれ光の発生が可能となる。

図2 チャープ分極反転光デバイス(a)から発生された量子もつれ光のスペクトラム(b)7)
図2 チャープ分極反転光デバイス(a)から発生された量子もつれ光のスペクトラム(b)7)

 我々はチャープ分極反転光デバイスとして,物質・材料研究機構の栗村グループの作製したMg:SLT(マグネシウム添加タンタル酸リチウム)素子を用いた7)。模式図を図2(a)に示すが,分極反転周期は3.12μmから3.34μmまで約7%チャープしており,結晶長20 mm(総周期数6000以上)に渡り精密に制御されている。

これは高精度な電極の微細加工技術により初めて可能となった。この素子にポンプ光として波長401 nmのレーザー光を入射し,量子もつれ光を発生させた(図2(a))。ポンプ光をフィルタにより遮断,発生した光子をファイバーにて分光器に導入し,計測したスペクトラムを図2(b)に示す。波長域660−1030 nm,周波数帯域163 THzという超広帯域に渡り,光子の発生を確認できた。これは理論的に予測される値(波長域660−1040 nm,周波数帯域166 THz)とよく一致している。

同じカテゴリの連載記事

  • 竹のチカラで紫外線による健康被害を防ぐ 鹿児島大学 加治屋勝子 2024年12月10日
  • 光周波数コムを用いた物体の運動に関する超精密計測と校正法 東北大学 松隈 啓 2024年11月10日
  • こすると発光色が変わる有機結晶の合理的創製 横浜国立大学 伊藤 傑 2024年10月10日
  • 光ウェアラブルセンサによる局所筋血流と酸素消費の非侵襲同時計測 明治大学 小野弓絵 2024年09月10日
  • 関心領域のみをすばやく分子分析するラマン分光技術 大阪大学 熊本康昭 2024年08月12日
  • 熱画像解析による土壌有機物量計測技術の開発 大阪工業大学 加賀田翔 2024年07月10日
  • 組織深部を可視化する腹腔鏡用近赤外分光イメージングデバイスの開発 (国研)産業技術総合研究所 髙松利寛 2024年06月10日
  • 8の字型構造の活用による高効率円偏光発光を示す第3世代有機EL材料の開発 名古屋大学 福井識人 2024年05月07日