本稿では,著者が北海道大学電子科学研究所(大阪大学産業科学研究所常駐)および京都大学大学院工学研究科に在籍していた期間に,竹内繁樹教授らのグループにおいて,物質・材料研究機構ならびに名古屋大学と共同で実施した「量子光コヒーレンストモグラフィ(量子OCT)」と呼ばれる,量子もつれ状態にある光を用いた,超高分解能光計測の実現に向けた我々の研究を紹介する7)。
量子OCTは,従来技術であるOCTの量子版として,M. C. Teichらにより提案・原理実証された量子光計測技術である8, 9)。従来のOCTでは,試料内の分散により分解能が低下することが大きな課題となっている。また分解能を向上させるためには光源の広帯域化が必要となるが,広帯域であるほど分散の影響を強く受けるために,より分解能の劣化を招くというトレードオフの関係がある。そのため実効的な分解能が5〜10μm程度に制限されていた。
一方,量子OCTでは,光の量子力学的状態である量子もつれ光を用いることで,試料内の分散の影響を受けず,また分解能が従来法よりも向上すると考えられ,OCTの限界を超えた,超高分解能計測が実現できると期待されていた。このような分散耐性を有する超高分解能な光計測技術が実現されれば,眼科をはじめとする医療分野のみならず,製品の非破壊検査など産業分野へと革新的な発展をもたらすと期待される。
以下,我々の研究について紹介する。