3. Mg共添加技術を用いた赤色発光ダイオードの作製
これまでの希土類イオンを用いた従来の発光素子ではできなかった電流注入による発光素子の作製を半導体の強みを生かすことで実現するために,Eu添加GaN層をGaN-PN接合で挟み込んだ発光ダイオードを作製した2)。発光層となるEu添加GaN層の厚さは300 nmとして,先に説明したMg共添加技術を用いることで発光特性の改善を試みた。作製した発光ダイオードの電気特性を調べたところ,電圧3.2 Vで立ち上がる整流特性が得られた。
この特性は一般的な窒化物半導体で作製される発光ダイオードの特性とほぼ同様の特性である。図4にプローブ接触によって電流注入された発光ダイオードの発光像を示す。室温において肉眼で確認できる赤色の発光が観測され,活性層のMg濃度が1.2×1017 cm–3のときに最も高い発光出力が得られ,Mg共添加していないEu添加GaN層を発光層とした発光ダイオードに対して,発光強度が5倍程度増大した。最近では,Eu濃度やMg濃度を最適化させることで,20 mAに対して13μWの発光強度が得られている。
4. Eu添加GaNナノコラム結晶の作製
更なる発光強度増大にはEu発光中心を増加させる必要があるが,Eu濃度を増加させすぎると反対に発光強度が減少してしまう濃度消光と呼ばれる現象が起こる9)。MBE法においてEu濃度1.5%以上の試料を作製したところ,Eu添加GaN薄膜においては結晶表面において多くのクラックが観測されるとともに発光強度の著しい低下が観測された。
したがって,この濃度消光を抑制することが更なる発光素子の発光強度増大に向けた課題となる。この問題解決の手法として,我々はナノコラム結晶に着目した研究を進めている。窒化物半導体では成長基板となるサファイア基板とGaNの間の大きな格子不整合(材料の違いによる結晶格子の長さが異なること)により結晶中に貫通転位と呼ばれる結晶欠陥が多く含まれ,発光効率が著しく低下する。
一方で,サファイア基板上やシリコン基板上に自己組織的に形成されるナノコラム結晶は直径20〜100 nm程度,高さ1μmの柱状結晶であり,結晶中に貫通転位を含まないことから優れた発光特性を示すことが知られている10, 11)。