1. はじめに
希土類イオンは特定の波長域において効率よく光増幅が可能なことから固体レーザやカラーディスプレイ用蛍光体,光ファイバ増幅器などへと広く応用され,光エレクトロニクスの発展を支えてきた。希土類イオンによる発光は母材の種類に依存せず,各元素固有の発光波長でシャープな発光を示し,その発光波長は環境温度の影響を受けにくいといった特徴を有する。
一方で,半導体を用いた発光素子は電流注入を可能にすることから高効率で小型な発光素子を作製することができるため,発光ダイオードや半導体レーザへと応用され,白色照明や信号機のライト,光通信用光源などへと実用化されている。これらフォトニクス分野の発展を支えてきた両材料を組み合わせた希土類添加半導体を用いることで,環境温度耐性に優れた新たな発光素子の作製に向けた検討が進められている。
最近では,青色発光ダイオードの材料としてよく知られる窒化物半導体(GaN)に希土類イオンであるユーロピウム(Eu)を添加した層を発光層とした室温動作の赤色発光ダイオードが報告されている1, 2)。
Eu添加GaNはイオン注入法3)や有機金属気相成長(OMVPE)法4),分子線エピタキシー(MBE)法5)によって作製される。複数ある作製手法の中でもMBE法は純度99.9%以上の金属を原料として用いるために結晶中に意図しない不純物を取り込みにくく品質のよい結晶の作製が期待できるため,我々は作製手法としてMBE法を選択し研究を進めている。
図1にMBE法で作製されたEu添加GaNのフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを示す。X線回折により見積もられた試料のEu濃度は2×1020 cm–3(0.5%)である。Euイオンの内殻遷移に対応した非常に線幅の狭いシャープな発光線が観測され,半導体中においても希土類イオンの特徴的な発光特性が得られている。本稿では,我々が取り組んできたMBE法によるEu添加GaNの発光特性の改善やデバイス作製について述べるとともに,最近取り組んでいるナノ構造を用いた発光特性改善の取り組みについて述べる。