2. Mg共添加による発光特性の改善
半導体中における希土類イオンの発光は電流注入(もしくは光励起)によってGaN母材に与えられたエネルギーがEuイオンに受け渡され,そのエネルギーが発光エネルギーへと変換されることで赤色発光が得られる。しかしながら,結晶中に含まれるEu元素の全てが発光に寄与できていないため,期待される十分な発光強度が得られていない。
これはGaN母材からすべてのEuイオンに対してエネルギーの受け渡しができるわけではない,もしくは受け渡す効率が極めて低いEuイオンが存在することに起因している。そのため,Eu添加GaNの発光特性改善するためには,発光に寄与しやすいEu発光中心をGaN中に形成することが重要な解決課題となる。
希土類添加半導体では,発光特性改善の手法として共添加技術が有効手段として知られている。エルビウム(Er)を添加したガリウムヒ素(GaAs)において酸素を共添加することでEr原子周囲の結晶構造が制御され,発光強度が飛躍的な増大に寄与することが報告されている6)。
我々はMBE法を用いたEu添加GaNの成長においてマグネシウム(Mg)を共添加元素として用いた7, 8)。図2にMg共添加を行ったEu添加GaNと従来のEu添加GaNのキセノンランプ励起による発光像を示す。Mg共添加することで明らかに発光強度が増大していることがわかる。
図3にMg共添加を行ったEu添加GaNと従来のEu添加GaNのPLスペクトルを示す。発光強度は従来の試料と比べて20倍程度に増加し,支配的な発光ピークは622.3 nmから620.3 nmへと変化した。
これはMg共添加したことで新たな発光中心が形成されたことを示している。詳細な光学特性評価を行ったところ,Mg共添加によって形成されたこの発光中心はGaN母材からのエネルギーの受け渡し効率が高いということが明らかとなった。つまり,Mg共添加がGaN中のEuイオンを効果的に利用する手法として極めて有効であることを意味している。
また室温と低温の発光強度比から見積もられる温度消光比(発光効率の指標)を調べたところ,Mg共添加を行ったEu添加GaNでは80%以上という極めて高い値が得られた。この結果は,環境温度耐性に優れた高効率な発光素子が実現できることを示唆している。