1. はじめに
光触媒は,光を吸収して有機物を酸化分解することができるため,環境浄化材として利用されている。近年,可視光で駆動する光触媒の開発が進み,今後は屋内向け光触媒市場の成長が見込まれている。有機物質に対する分解能力は,光触媒材料毎に異なる。環境の浄化を目的とするならば,浄化対象となる有機物質に対して分解能力の高い光触媒材料を選定する必要があり,様々なニーズに対応していくためには,光触媒材料の多様化が必要となる。
光触媒反応は,酸化分解する前に,光触媒表面に有機物が吸着されることが必要であるため,有機物に対する吸着能も光触媒能に対する重要な因子である。ハイドロキシアパタイト(以下,アパタイト)は,タンパク質,アミノ酸,ウイルス等の有機物質に対して,非常に高い吸着能を有していることで知られているため,アパタイトは多様な有機物に対して有用な光触媒に成り得る。
さらに,アパタイトは,我々の歯と骨の主な成分であることから,アパタイト系光触媒は,単に環境浄化材としてではなく,医療材料への展開も期待される。このように,アパタイトは潜在的な可能性を秘めていると言えるが,アパタイト自体には実用的な光触媒能は備わっていない。
これまで,アパタイトのカルシウムの一部をチタンで置換したチタンアパタイトは400 nm以下の波長領域の紫外光を吸収し,紫外線照射下において有機物を分解できる光触媒能を有することが報告されている1, 2)が,人体への影響,エネルギー効率を考慮すると,可視光で駆動するアパタイト系光触媒の開発が望まれる。そこで我々は,アパタイトのカルシウムの一部をバナジウムに置換したバナジウムアパタイトが可視光応答性を発現することを見出したので,本稿で述べる。