2. 可視光応答型バナジウムアパタイト光触媒3)
バナジウムをモル比率(V/(Ca+V))が1~10%になるように調整し,400℃焼成後のバナジウムアパタイトのXRDパターンを図1に示す。全てのバナジウムアパタイトは,アパタイトの結晶構造を有していた。格子定数を調べると,バナジウムの置換率と格子定数に線的な相関はなく,カルシウムとバナジウムが単純に1:1の関係で置換していないことが示された。
これは,結晶構造内におけるカルシウムは2価であるのに対して,バナジウムの価数は,XPS測定より5価であったため,電気的中性を保つために,1個のバナジウムが置換するとき,2.5個のカルシウムが結晶格子外に放出されるためと考えられる。そのため,バナジウムが置換することで,そのイオン半径分だけ格子が縮む効果と,カルシウム欠損が生じることで,酸素イオン同士の反発が生じ,格子が拡張する効果が生じ,この2つの効果が合わさることで,格子定数とバナジウム置換率の線的関係は失われたと考えられる。
さらに,これらのバナジウムアパタイトを650℃で焼成すると,バナジウムの置換率が3%まではアパタイトの結晶構造が保持されたが,5%以上になるとアパタイトの結晶構造が崩れ,V2O5とCa3(PO4)2に分解した。この分解は,バナジウムの置換率が高くなると,カルシウム欠損が多量に導入されることから,アパタイトの構造が不安定になることに起因する。650℃の焼成によって,Ca欠損が多いアパタイトでは,その結晶構造を保持できなくなり,分解したと考えられる。
次に400℃焼成後のバナジウムアパタイトの紫外可視光の拡散反射スペクトルを見ると,図2に示すように,バナジウムを置換していないアパタイトは,波長250 nm−800 nmの光を吸収しないが,バナジウムアパタイトでは,450 nm付近から吸収の立ち上がりが見られた。バナジウムの置換率が10%になると,吸収は500 nmまで及んだ。バナジウムを置換することで新たな吸収が生じたことから,バナジウムはアパタイトのバンドギャップ内に新たな準位を形成していることがわかった。