東北大ら,金属クラスターの発光を重原子効果で向上

東北大学多,東京理科大学,インド工科大学は,銀(Ag)クラスターのリン光特性を向上させるために,重原子効果を利用した新規Ag54クラスターの合成に成功した(ニュースリリース)。

数個から数百個の金属原子が集合した金属クラスターは特異な電子・光学特性を持つことから,発光材料や触媒,バイオイメージング用途などへの応用が期待されている。しかし,金属クラスターのリン光の量子収率を向上させるための体系的な設計指針は十分に確立されていない。

一方,有機発光材料では,重原子を導入することで項間交差を促進し,リン光効率を向上させる手法が広く用いられている。これはスピン軌道相互作用を強化し,三重項励起状態の生成効率を増加させることで発光特性を向上させるもの。しかし,金属クラスターにおけるこの内部重原子効果の研究はほとんど行なわれていなかった。

研究では,銀(Ag)クラスターの内部にアニオンを封入することで重原子効果を誘起し,リン光量子収率を向上させる手法を提案した。具体的には,中心に異なるアニオン(硫化またはヨウ素I)を内包するX@Ag54S20(thiolate)20(sulfonate)m (X, m) = (S,12)または(I, 11)の組成を持つ銀クラスターX@Ag54(X=S, I)を精密に合成し,その構造と光物性を比較することで,内包アニオンの種類が発光特性に与える影響を明らかにすることに取り組んだ。

その結果,重原子であるヨウ素を内包したI@Ag54クラスターでは,スピン軌道相互作用が強化され,項間交差が促進されることで,リン光の量子収率が16倍向上することを明らかにした。吸収スペクトルを解析した結果,I@Ag54では500nm付近に特徴的なショルダーピークが観測された。これは,重原子効果による三重項状態への遷移が増強された結果であると考えられるという。

この研究の成果は,金属クラスターの発光特性を内部に封入する重原子によって制御できることを示しており,新たな発光材料の設計指針を提供するもの。

金属クラスターは光機能材料への応用が期待されている。研究グループは,金属クラスターを基盤材料とした室温燐光材料や三重項感光剤を開発するための明確な設計指針に繋がることが期待される成果だとしている。

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