京都大学の研究グループは,光と電気化学刺激によりジアリールエテン2個をつないだ縮環二量体の2つのユニットが共に閉環した二閉環体の合成に成功し,この化合物が紫外・可視・近赤外光を吸収する3つの状態間で段階的にスイッチングすることを示した(ニュースリリース)。
研究グループはが扱う有機色素の一種のジアリールエテンは,光で着色したり消色したりする性質がある。元の分子構造は開環体と呼ばれる形で,可視光を吸収できない無色透明の分子だが,紫外光を吸収すると分子構造が変化し,閉環体になる。このとき分子中のπ共役構造が長くなって,可視光を吸収できるようになることで着色する。
このジアリールエテンを閉環体の状態で二つ繋げ,分子中のπ共役構造をより長くすることで,近赤外光の吸収を目指した。二つの閉環体同士をラダー型構造で直結させると,長く剛直なπ共役構造が得られるため,この二閉環体は原理上,近赤外光の吸収能を獲得する。
しかし紫外光で片方を閉環体にした後,続けてもう片方も閉環体にしようとしても,先に閉環体になった側へとエネルギーが逃げてしまうため,光反応でこのような二閉環体を得ることはできない。
この反応性の問題は,例えば反応には無関係のスペーサーを差し込む,ラダー型にせずπ共役が柔軟に動くようにする,といった二つの閉環体の間のπ共役の繋がりを弱くする方法により解決できるが,そのような柔軟な構造では,π共役は完全には繋がらず,吸収波長は近赤外には到達しない。
今回,研究グループは,従来の光による閉環反応に,電気化学的な閉環反応を組み合わせることで,二つのジアリールエテンユニットをともに閉環させることに成功した。適切な置換基を導入したジアリールエテン縮環二量体を合成し,光や電気化学刺激に伴う構造変化を調べた。
まず,紫外光を照射すると,無色の開環体(oo)は水色の一閉環体(co)へと変化した。その後,さらに酸化と還元を順に行なうことで,近赤外域に吸収を有する二閉環体(cc)が得られた。この二閉環体の構造は,単結晶X線構造解析によって確認された。
また,二段階目の酸化還元に伴う構造変化の詳細な調査や,量子化学計算のサポートにより,電気化学的閉環反応がラジカルカップリングと呼ばれるメカニズムで進行したことを明らかにした。さらに,二閉環体(cc)は,近赤外光を照射することで元の一閉環体(co)へと戻り,さらに可視光を照射すると開環体(oo)へと戻ることが確認された。
研究グループは,今後同様の手法により新たな機能性材料を生み出されることが期待されるとしている。