大阪大学の研究グループは,金属3Dプリンティング技術によって,弾性率や降伏強度といった材料の力学機能に異方性を生み出す結晶配向方位を制御することに成功した(ニュースリリース)。
3Dプリンティングは,その自在な形状設計能力を生かし,トポロジー最適化技術と組み合わせることで,特定の力学的環境下における部材形状の最適化により強度を維持しつつ軽量化を達成する手段として注目されてきた。
しかしながら,トポロジー(形状)のみで得られる軽量化効果は限定的であり,形状に加えて,材料そのものの強度特性をも同時に制御する,抜本的な製品設計指針の革新が求められていた。
研究グループでは,3Dプリンティングの形状設計能力はそのままに,材料そのものの強度特性を制御する手段として,結晶配向性の導入を図ってきた。これは原子配列の異方性に基づき,ヤング率や降伏強度といった力学機能に異方性を導入し,さらに結晶配向を,部材内部の場所ごとの力学的要請に合わせて変化させるという新たな設計手法。
この目的のため,立方晶系の結晶構造を持つ金属材料(構造材料の多くが該当する)において,<001>と<011>が造形方向(BD)を向いた単結晶様の結晶配向を実現しており,残りは,多くの金属種にて力学機能の最大値を示す<111>の配向化が必要だった。
<001>,<011>//BD試料における解析から,結晶の優先成長方向と対称性に基づく配向化機構を予測し,<111>//BDを達成する特殊なレーザー走査戦略を設計し,<111>//BDを目指した。
<111>//BDの対称性に基づき,通常往復走査させるレーザーを片道走査させ,層ごとに走査方向を120°回転させる3層周期の新たな走査戦略,+120°Rotスキャンを設計することで,<111>//BDなる結晶配向を実現し,単一材料にて3種の結晶配向をそろえることに成功した。
この結晶配向制御は,輸送・エネルギー分野での活用が期待されるNi基超合金や各種社会基盤材料にも適用可能。これにより,新設計手法実現の基盤要素を獲得したとする。
カスタム異方性力学機能制御の実証のため,形状異方性と材質異方性(結晶配向)を同時に導入した造形体試料を作製し,ヤング率を解析した。材質のみを異方性にした場合,形状のみを異方性にした場合に対し,形状・材質の両者の異方性を,向きをそろえて導入すると大きなヤング率異方性を示した。
研究グループは,この設計概念を組み入れた形状・材質同時最適化設計ツールを構築し3Dプリンタと連結することで,軽量かつ高力学機能性を両立した製品が社会実装される未来も近いとしている。