千葉大,重力レンズで65億光年先の星を40以上発見

千葉大学の研究グループは,重力レンズと呼ばれる自然の集光現象を利用することで,65億光年離れた遠方の銀河内の単独の星40個以上を発見した(ニュースリリース)。

近年,遠方銀河内部の個々の星を観測する手法として,重力レンズを用いた手法が開発され,大きな進展が得られつつある。これは銀河団により引き起こされる重力レンズによって,その背景の銀河からの光に極めて強い集光効果が働くことで,遠方の星からやってくる光が何百から何千倍も明るくなることを利用する。

これにより,通常では観測できない遠方銀河内部の個々の星の検出が行なわれてきたが,これまでの観測では遠方の銀河それぞれに対して1個ないし数個程度の検出にとどまっていたため,より多くの星の検出が望まれていた。

研究グループは,地球から約40億光年離れた銀河団アーベル370の背景に位置する,65億光年離れた銀河に着目。この遠方銀河は,銀河団の強力な重力レンズ効果によりその見た目が引き伸ばされたように見え,その特徴的な形状からドラゴンの愛称でも知られている。

研究グループは,ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡により,2022年と2023年の1年間隔で撮影された画像を慎重に解析し,このドラゴン内部の44個の星に対して,見かけの明るさの大幅な変動を捉えることに成功した。これらの星は重力レンズ効果によって数百から数千倍程度明るくなっており,重力レンズ効果の時間変動によって見かけの明るさも時間変化しているため,今回の解析によって捉えることができた。

これらの星は,重力レンズ効果により遠方銀河内で特定の時間の間だけ見かけ上明るくなっている状況で,その星の光がまたたく瞬間を,ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による高感度かつ高分解能観測により捉えたことになる。

この40を超える新たな星の発見は,遠方銀河内の個々の星を捉えた観測としては過去の記録を大幅に塗り替えるともに,遠方銀河内の星を大量に観測し統計的な研究が行なえることを実証した。

また今回発見された星の色も詳しく解析し,そのいくつかはベテルギウスに代表される,星が寿命を迎える段階にある赤色超巨星であることを突き止めた。これまで重力レンズで発見された遠方銀河内の個々の星の多くはリゲルに代表される青色超巨星であり,その点でも新しい発見となる。

波長の長い光を効率よく捉えることができるジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測だからこそ,比較的温度が低い大量の赤色超巨星を発見することができたという。

研究グループは,宇宙が生まれてから現在までの銀河の進化についての研究や,宇宙を満たすダークマターの正体に迫る成果だとしている。

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