宇都宮大学と名古屋大学は,植物の青色光受容体フォトトロピン(phot)が光と温度に応じて2つの自己リン酸化様式を切り換え,植物にとって過酷な環境に対して迅速に応答する仕組みを解明した(ニュースリリース)。
植物は光合成効率を最適化するため,光強度や温度に応じて葉緑体の配置を変化させる(葉緑体定位運動)。常温弱光下では葉緑体を光照射面に集める「集合反応」を,低温や強光下では光阻害を避けるために葉緑体を逃す「寒冷逃避反応」や「強光逃避反応」を誘導する。
葉緑体定位運動は,光や温度のセンサーとして働くキナーゼタンパク質フォトトロピン(phot)によって制御される。photは青色光を受けると自己リン酸化し,そのレベルは低温や強光で上昇する。リン酸化は遺伝子発現を介する応答よりも迅速に反応するが,その制御機構は解明されていなかった。
今回研究グループは,ゼニゴケのphotのリン酸化サイトを網羅的に調査し,23ヶ所のセリンおよびスレオニンをリン酸化サイトとして同定した。環境依存的なリン酸化サイトの変動を解析したところ,過酷な環境で誘導される自己リン酸化レベルの上昇には複数のリン酸化サイトが関与することが示唆された。
これらのリン酸化サイトの制御機構を解明するため,2つの自己リン酸化様式について解析した。過去の研究で,photは単量体と二量体として存在することがわかっている。今回,photが1分子内で完結する「シス自己リン酸化」と,分子間相互作用を介する「トランス自己リン酸化」の2つの自己リン酸化様式を持ち,それぞれが自己リン酸化レベルに影響を与えるという仮説を立てた。
これを検証した結果,ゼニゴケのphotが2つの自己リン酸化様式を持つことが示された。また,変異型photの詳細な解析により,低温や強光環境下でのphotの自己リン酸化レベルの上昇が,自己リン酸化様式の切り換えによるものであることを示す証拠となった。
さらに,今回作製した変異体から,寒冷逃避反応および強光逃避反応の誘導には,photのトランス自己リン酸化が不可欠であると考えられた。
以上の結果から,植物にとって過酷な低温や強光の環境下では,photが自己リン酸化様式を切り換え,周囲のphotと相互に自己リン酸化を行なうことでリン酸化レベルを上昇させ,逃避反応を迅速に誘導することが示唆された。
photを介した環境応答反応は陸上植物に広く保存されていることから研究グループはこの成果について,植物の環境感知機構に関する理解を深める上でも重要な知見だとしている。