電気通信大学と名古屋大学は,2024年5月11日に日本の写真家が観測した青いオーロラの写真を解析し,その出現領域の推定を行なった(ニュースリリース)。
2024年5月8日から,太陽黒点群13664は複数のXクラス太陽フレアを発生させ,連続的なコロナ質量放出が観測された。これが地球に到達し,5月10日には最大規模(G5クラス)の極めて強い磁気嵐が21年ぶりに発生した。
このような磁気嵐の際,オーロラは赤道方向に拡大し,通常は見られない日本などの低緯度地域でもオーロラが観測されることがある。これらの地域では,オーロラの科学計測用の機器がほとんど設置されていないが,人口密度が高く,多くの人がスマートフォンやデジタルカメラで撮影したオーロラをSNS上で共有する。
今回,2名の写真家が石川県と長野県でそれぞれ同日23時30分頃に出現した青い低緯度オーロラの撮影に成功し,それらの写真に三角測量を適用することで青いオーロラの経度方向の広がりや,高度方向の分布を求めた。
普段オーロラが見られない中低緯度領域で,磁気嵐中に赤いオーロラと同時に青いオーロラが出現することは,過去にも報告例があるが,今回はそのような青いオーロラの空間構造を初めて可視化することに成功した。
青いオーロラとして最も有名なのは,電離圏に太陽光が照射されることで窒素分子イオンが共鳴散乱を起こして青く発光するものだが,この時太陽光が照射されたのは高度700kmまでであり,今回観測された青いオーロラの全てを共鳴散乱によるものとして解釈することは難しい。
磁気嵐中に青いオーロラが出現したという記録は過去にあるが,これは空のある一点の光量を計測する分光測光器によって得られた観測結果であるため,青いオーロラの空間構造を可視化したのは今回が初めてだとする。
観測結果によると,このオーロラには磁力線に沿う縦状の構造や,経度方向に数百kmの間隔で隔たりを持つことがわかった。これは,過去に提案された青いオーロラの生成機構では説明が難しいものであり,今後より詳しい解釈が求められる。
また,青いオーロラは,未だ多くの謎に包まれている地球の窒素分子イオンが磁気圏に散逸する過程で可視化される可能性があり,地球大気の磁気圏への流出過程の理解に役立つという。
研究グループは,今回のような青いオーロラの観測を繰り返すことで,青い低緯度オーロラの発生原理,ひいては窒素分子イオンの磁気圏への流出過程を明らかにする糸口が見つかるかもしれないとしている。