宇宙航空研究開発機構(JAXA)は,X線分光撮像衛星(XRISM:クリズム)が,大質量星の一種であるウォルフ・ライエ星から吹き出すガス(星風)や,ブラックホール候補天体に落ち込むガスの,詳細な動きを捉えることに成功したと発表した(ニュースリリース)。
宇宙に存在する恒星の大部分は,「連星」として生まれる。連星は,2つ以上の恒星がグループとなり,お互いの重力の影響を受けるだけでなく,物質を輸送し合いながら進化する。連星の形成や進化のメカニズムを知ることは,宇宙の歴史を知る上でも極めて重要となる。
「はくちょう座 X-3」は,「はくちょう座」の方向,約3万2000光年の距離にあり,可視光では見えず,赤外線やX線で観測される。連星の一方は,ウォルフ・ライエ星と呼ばれる大質量星で,1年間に地球数個分の質量に相当するガスを放出し続けている。
そしてもう一方は,太陽の数倍の質量を持つ,小さめのブラックホール候補天体(ブラックホールもしくは中性子星)。こちらも大質量の恒星が,超新星爆発によって今の姿になったものと考えられている。
ウォルフ・ライエ星とブラックホール候補天体の公転周期は5時間弱。つまり,ウォルフ・ライエ星から放出される大量のガスの中を,ブラックホール候補天体が激しく飛び回っている。
ガスの一部はブラックホール候補天体の重力に吸い寄せられ,強烈なX線を放つ。1秒あたりに放射されるX線のエネルギーは,太陽が放射するエネルギーの数日〜10日分に相当する。このX線に激しく照らされることで,周囲のガスは「光電離プラズマ」となる。
XRISMは2024年3月下旬,普段よりもX線で増光していた「はくちょう座 X-3」を観測し,光電離プラズマの詳細なスペクトルデータを取得した。軟X線分光装置Resolve(リゾルブ)の分光性能によって,様々なイオンによる輝線や吸収線が分離された。
今回,このスペクトルを調べることで,ウォルフ・ライエ星から吹き出す星風や,ブラックホール候補天体に落ち込むガスの,詳細な動きを捉え,X線源であるブラックホール候補天体の最近傍で,特に激しい光電離が起こっている様子がわかった。
「はくちょう座X-3」は,やがてウォルフ・ライエ星側も超新星爆発を経てブラックホールとなり,最終的には重力波源として知られるブラックホール同士の連星になると予想されている。
研究グループは,今後XRISMのデータをより詳しく調べることで,この天体が,どのような過程で作られ,今後どのような進化を辿るのかが明らかになると期待されるとしている。