広島大学の研究グループは,線虫 Pristionchus pacificus(P.pacificus)の光忌避行動に関与する遺伝子および神経を明らかにした(ニュースリリース)。
光受容はほぼ全ての生命が持つ重要な感覚系の一つ。地球上で最も多様な動物分類群の一つである線虫は眼を持っておらず,一般的な動物が持つ光受容タンパク質が存在しない。しかし,いくつかの種で光反応性が確認されていた。
研究グループは,まずP.pacificusが光反応性を持つかを調べるために,前進運動中の線虫頭部に光を照射し,忌避行動を引き起こすことができるかを調べた。その結果,P.pacificusは特に青色や紫外光など短波長側の光に対して忌避行動を示した。
また,この光忌避行動の頻度はC. elegansよりも高く,弱い光に対しても反応性が高いことが分かった。次に,P.pacificusのゲノム上に既知の光受容タンパク質があるかを調べるためにバイオインフォマティクス解析を行なった。しかしながら,光受容タンパク質の候補となる遺伝子は見つけられなかった。
そこで,P.pacificusの光受容に関わる遺伝子を同定するために,順遺伝学的スクリーニングを行ない,約2万系統の中から光忌避行動を示さない系統を5系統単離することに成功した。5系統の変異体系統の原因遺伝子を探索したところ,3系統においてcGMP依存性経路の一部であるグアニル酸シクラーゼdaf-11,2系統においてGPCRキナーゼgrk-2に変異が導入されていることを明らかにした。
CRISPR/Cas9法によるゲノム編集技術によってdaf-11を含むcGMP依存性経路の遺伝子およびgrk-2を破壊した線虫においては光反応性が失われており,これらの経路がP.pacificusの光反応に重要な機能を果たすことが分かった。さらに光忌避行動に関与する神経伝達物質を探索したところ,GABAおよびグルタミン酸が必要であることを明らかにした。
次にcGMP依存性経路の遺伝子およびgrk-2の発現を確認したところ,頭部の感覚神経であるamphid neuronの一部に発現が確認された。cGMP依存性経路,グルタミン酸はC.elegansの光反応に必要だが,grk-2は必要ではなくP.pacificusとC.elegansにおいて光反応に用いている遺伝子が一部異なることが明らかになった。
研究グループは,今回の研究の成果は,光による新たな駆除法の研究に寄与することが期待されるとしている。