名大ら,引張り力で体中の蛍光色が変わるマウス作出

名古屋大学,東京工業大学,理化学研究所は,体中の組織の蛍光色が引張りに応じて変化するマウスの系統を新たに作製した(ニュースリリース)。

筋肉を鍛えると太く逞しくなるように,生物の組織,細胞,タンパク質は外界からの力から大きな影響を受ける。このような,力が生物に及ぼす影響を調べる分野をメカノバイオロジーと呼ぶが,その発展には細胞やタンパク質に加わる力を安定的に可視化する方法が非常に重要。

そのために,従来FRET型張力センサと呼ばれる,引張りによって蛍光色が変化するタンパク質を利用する方法が用いられてきた。しかし,このセンサの遺伝子を組み込んだマウスは,応答が十分でないために,観察には1億円近くする高価な顕微鏡(FILM)で精密に測定する必要があった。

そこで今回,研究グループが以前開発したActinin-sstFRET-GRを遺伝子導入したマウスの開発を進め,その作出に成功した。細胞内部にはストレス・ファイバー(SF)と呼ばれる線維が走っている。SF は筋肉の主成分であるアクチンとミオシンからできており,収縮力を発生する。

SF内でアクチンフィラメントを束ねているアクチニンの中央部にEGFPとmCherry という2つの蛍光タンパク質をバネのようなタンパク質で繋いだ張力センサを組み込んだ。SFに力が加わるとアクチニンが斜めになって引張られ,EGFPとmCherryの間隔も広がる。こうすると張力センサのFRET効率が低下する(蛍光色の赤が弱まり、緑が強まる)ために張力の変化が判る。

このマウスでは,一般に広く用いられている共焦点顕微鏡で張力変化を観察できる,即ち,組織を引張るとFRET比が低下することを,血管,腱,筋肉,あるいはそれらから単離した細胞で確認した。

また,それぞれの組織・細胞の張力に対する感度が組織によって大きく異なる値を取ることを見出した。そして,これらが組織や細胞の微細構造の差によるらしいこと,また,この違いが,夫々の組織の機能の差で説明できることを示した。

このマウスでは筋肉でも血管でも,SFを持つ細胞から構成される全ての組織,即ち,力と関係がある全ての組織が常にセンサを発現する。

研究グループは,この研究で開発したマウスを使うことで,様々な組織や細胞内の張力変化を知ることができると同時に,種々の発生段階,成長段階,あるいは老化の過程でこの応答がどう変化していくのか調べることもできるため,幅広いメカノバイオロジー分野において様々な応用が期待されるとしている。

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