阪大ら,長波長側の光で陰イオンを検出する材料開発

大阪大学とデンマーク工科大学は,溶液中のフッ化物イオンなど特定の陰イオンに反応して,その存在を見た目の色や発する蛍光の色の変化で可視化する新しいタイプのセンサー分子を作り出すことに成功した(ニュースリリース)。

過剰摂取により健康に害を及ぼすこともあるフッ化物イオンのような陰イオンを安価かつ高感度に検出する方法として,三配位の有機ホウ素化合物を使って,見た目の色や発光色が変わることで陰イオンの存在を捉えるセンサーが多く開発されてきた。

しかし,従来のセンサーでは,陰イオンがホウ素に結合した時に起こる色や発光色に関わる光の波長変化を逆側(短波長化,低エネルギー化)にすることは困難だった。もし逆側の変化を起こせるセンサー分子を作れたら,新しい方法で陰イオンの検知や,生体透過性の高い光を使った検知ができるかもしれない。

研究グループは,架橋型ホウ素化合物「フェナザボリン」の性質に注目した。この分子は,三配位ホウ素の空のp軌道に由来する「陰イオンを捕まえる能力(ルイス酸性)」を持ちつつ,同時に「電子を与える能力(電子ドナー性)」を持つ。

不対電子対を持つ窒素原子とホウ素原子の間には,特別な結びつき(共鳴効果)があって,それが物質のこの二つの性質(両極性)を可能にしている。研究グループは,フェナザボリンを以前開発したU字形の電子欠損性の芳香族分子(ジベンゾフェナジン)と組み合わせることで,陰イオンを検知する際に見ることのできる光の範囲を広げることに成功した。

この新しいセンサーは,陰イオンがくっつくと,従来のセンサーよりもエネルギーの低い光,つまりより赤い光を発する。これはフェナザボリンの電子ドナー性向上に基づくHOMO-LUMOギャップの狭化,励起状態の電荷移動性の向上に起因する。

研究グループは,分子デザインの妥当性を検証する比較実験から,電子求電子性の高いジベンゾフェナジンの存在により,フェナザボリンのルイス酸性度の向上・フェナザボリンからジベンゾフェナジンへの電荷移動が促進される効果があることを明らかにした。

さらに,陰イオンに反応して光の色を変える性質を持つ分子を使って,新しい種類の高分子フィルムを作った。このフィルムは,汎用的なプラスチック(ポリスチレン)と開発した発光性分子,そしてフッ化物イオンから調製されている。

フッ化物イオンを少量加えるだけで,フィルムが発する蛍光が青から赤に変わる。そして,加えるフッ化物イオンの量を上手に調整することで,フィルムが白色に光るようにもできることがわかった。

研究グループは,今回の知見を発展させて水溶性,特定のイオンへの選択性・結合能を向上させることができれば,将来的には,生体透過性の高い近赤外光を利用した生体内陰イオンの超高感度・高精度検出技術の創出が期待されるとしている。

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