産総研,CIS型薄膜太陽電池の光電変換効率を向上

 産業技術総合研究所(産総研)は,希少金属インジウムを含まないCIS型薄膜太陽電池の光電変換効率を向上させる技術を開発した(ニュースリリース)。

タンデム型太陽電池の材料やデバイスの研究開発ではCIS型化合物も有望で,約1.1eV程度の,比較的禁制帯幅が狭いCIS型太陽電池は製品化もされているが,トップセルとして用いることが可能な,禁制帯幅約1.6eV以上(短波長の光吸収に特化)のCIS型太陽電池で高い光電変換効率を得るのは難しかった。

今回研究グループは,1.7eVの広禁制帯幅を有するCIS型化合物(CuGaSe2)薄膜に裏面電界効果を持たせるためのアルミニウム添加手法を考案し,インジウムを含まないCuGaSe2薄膜太陽電池の高性能化技術を開発した。

アルミニウム添加によって禁制帯幅の拡大が期待できるが,性能低下を招く結晶欠陥が増加するため,高性能な太陽電池を作製することはこれまで困難だった。

今回,CuGaSe2光吸収層の製膜中に,アルミニウムを光吸収層の表面から裏面方向に向かって含有量が多くなる傾斜をつけて添加した。さらにアルカリ金属化合物も添加することで,欠陥形成を抑制できる効果を見いだした。

これらの手法を製膜工程に取り入れることで,広禁制帯幅CuGaSe2薄膜太陽電池の性能向上を実現した。また,CIS型太陽電池は安定性に優れ,今回作製した太陽電池は未封止の状態で数カ月放置した後も性能低下は見られなかったという。

今回開発した技術では,アルミニウム添加によってCuGaSe2光吸収層裏面側の伝導帯下端を押し上げ,エネルギー帯に傾斜構造を形成する。さらにアルカリ金属化合物を添加することで,アルミニウム添加によって副作用的に形成されてしまう結晶欠陥を抑制する効果を得た。

作製した光吸収層(CuGaSe2:Al)では裏面側のアルミニウム含有量が高く,そのため裏面電界形成が期待できる。これにより,光吸収によって生成された電子の移動と外部回路への取り出しやすさが促進され,太陽電池の性能向上に成功したという。

インジウムを含有しないCIS型太陽電池の高性能化は特に難しい課題だが,今回,安価な材料であるアルミニウム添加による性能向上効果を見いだし,初めて12%を超える変換効率を得た。これはインジウムを含まないCIS型薄膜太陽電池の最高効率とだという。

研究グループは,今回の成果は太陽電池だけでなく,水分解水素生成用光カソードとして光電気化学セルなどさまざまなエネルギー変換デバイスへの応用も期待できるものだとしている。

その他関連ニュース

  • 産総研,ペロブスカイトPV自動作製システムを開発 2024年10月03日
  • 阪大ら,緑色光を発電に用いる有機太陽電池を開発 2024年08月29日
  • 【解説】機械学習×ロボットが,研究者を単純労働から解放する 2024年08月19日
  • PXPら,曲がる太陽電池で研究開発プロジェクト採択 2024年07月16日
  • NIFSら,ナノ秒紫外レーザーでPVにナノ構造を形成 2024年07月11日
  • 東京都港湾局と東芝,ペロブスカイト太陽電池を検証 2024年07月01日
  • 【解説】伸縮可能な太陽電池が衣服を電源化する? 2024年07月01日
  • 京セラら,軽量太陽光発電システムの実証実験を実施 2024年06月13日